虚勢
初めて踏み入れたこの街の暗いところは表側とは全く違う所だった。
落書きが多い。煙たい。多くの建物がぼろぼろになってしまってる。
どうしようもなく居づらい。
でも速水を見つけるまでは帰れない。
速水の場所に検討なんてつかない。もしかしたら、ここにはいないのかもしれない。
そんなことを考えていると偶然見つけることができた。この道の奥。
段ボールが積まれているところに速水とさっきの男の人がいた。
「お前には昨日から目をつけてたんだよぉ。長袖着てて目立ってたからな。」
「やめてください。離して。私は学校に行かなきゃいけないの!」
「どうせ、学校なんてストレスたまるだけだぜ。だから手首にこんな傷がついてんだろ?」
男がめくりあげた服に隠れていた左手首。生々しい傷跡がついていた。
「はぁはぁ。速水、学校行こうぜ。」
走ってきてようやく速水の近くに来ることができた。
「ぁ?誰だぁ?てめぇ」
近くで聞いて初めて気づいた。この声どこかで聞いたことがある。……多分つい最近。
「こいつの同級生です。今から一緒に学校に行くので離してください」
「有り金、全部出したら考えてやるよ。」
思い出した。こいつの声をどこで聞いたのかを。妹をあんな姿にしたやつがこういう声をしてた。
……これはどうするのが一番いいか……。こんなクソ野郎、金を渡したところで離さないだろう。ただこいつが得をするだけ。
「おまわりさん!遅いです。こっちです。」
大声で言う。速水を抑える力が緩んで、速水がこっち側に逃げてくる。
「荷物お願い。先に駅に行って人呼んできて」
貴重品が、スマホさえすべて入ってるバックを押し付け、ファイティングポーズをとる。
喧嘩なんて生まれてから一度もやったことがない。ファイテングポーズすらまともにできていないと思う。アニメで見たものを真似してやっているだけだから何もわからない。ただ妹の仇に一矢報いれればそれでいい。
「はぁ?なんだよ。
怖くて、足がすくむ。でも逃げたくはない。
ファイティングポーズの意味なんて男の蹴り一つで何もなくなる。二発目の蹴りが鳩尾に入る。
「くほぉ」
息ができなくて力が入らない。みぞを押さえるように丸まって低い位置にあった俺の頭を抱えて膝蹴りを入れられる。
前が見えなくなる。もう何もできなくて、でもぎりぎり立ってられる。とにかく次の衝撃に備えるため前からの攻撃に備える。ファイティングポーズを崩して隙間なく顔を守る。みぞにも精一杯力を入れて今の俺にできる防御姿勢をとる。
鳩尾を殴られる。蹴られる。壁に当たる。衝撃を逃がすすべもなくさっきよりも強い痛みが体を襲う。
それからどれほど時間がかかっただろう。
殴られ続けた腕が熱い。壁に何度も叩きつけられた背中が痛い。
幸い最初に膝を入れられた以外は顔に対する攻撃はないから目も見える。匂いも感じる。耳も聞こえる。
「こっちです!」
速水が来てくれた。後ろには脅しとかではなく警察官がいる。
「ッチ。だりぃ」
逃げようとする男を無理やりタックルして動きを止める。
男は俺に押し倒され、俺は勢いを無くせなくて倒れこむ。そこを警察が取り押さえてくれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます