登校

 月曜日の朝になった。

 この土曜日、日曜日は妹のお見舞いに親と行く以外は一人で過ごした。


 頭の中には妹の顔と速水の顔。それにカツアゲのシルエットと雨に濡れた速水。それだけだった。

 妹のことは後悔してる。だから、今はそれしかできない。

 速水のことは嫌いじゃないけど、好きじゃない。一線を越えといてなんだよって話だけど、これはどうしようもないほどの本音。


 身軽な今日の朝。朝、体が軽いなんていつ以来だかわからない。

 クラスのみんなの反応が気になるけど怖い……勇気を振り絞って、軽い体を前に進める。


 そういえば、速水の連絡先も、速水がずっと冬服の理由も知らないや。

 駅のホームで電車が来るのを待っているときに、ふっとそんなこと考えた。


「放して下さい。」

 ちょうど俺がこの間、速水を会ったときに降りた駅で速水の声が聞こえる。それは駅のホームの外。改札の手前で速水が俺たちより少しだけ年齢が上で酔っ払ってる男に手をつかまれてる。それなのに周りの人は無関心で通り過ぎていく。気づいていないはずもないに本当に気づいていない風に通り過ぎていく。


 ゾッとした。

 通り過ぎていく人に俺を重ねたから。

 客観的にみるとみて見ぬふりって言うのはここまで心がないように見えるんだ……。


 速水の言葉がよぎる。『困ってる人を助けるのは当たり前じゃないの?』。




 これで、俺の皆勤賞もなくなったな。

 もう遅刻する覚悟で電車から降りる。乗ってくる人の波で押し戻されそうになってしまう。何とか人を押しのけ、迷惑そうな顔を向けられながらも降りたときにはもう速水の姿は見えなかった。


 人が少ない朝のホームを駆け抜ける。

 この街にだって警察か居る。そんな警察がいても気にせず犯罪行為ができる場所の心当りなんて一か所しかない。


 俺の『大人』な目でも見通せない細い路地の奥。

 怖くてたまらないけど……ここで行かないはありえない。

「ハハッ。速水が人助けする時ってこうやって考えてるんだ……。」

 速水の考えてることが少しだけど……分かった気がする。

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