会話

 声をかけた後のことを何も考えていなかった。


「なに?」

 速水の声とは思えないほどの冷たい声だった。

「話がしたい。」

 俺の言葉は自然と出てきた。俺の声は俺が思ていたよりも図々しかった。

「いいよ。でもここは人の邪魔だからどこか行こ。」

「わかった。」

 自分の思ったよりもトントンと冷たく話が進んでいく。

「傘あげる。」

 俺の方に歩いてくる速水にコンビニで買ったビニール傘を差しだす。

「ありがとう。」

 素直に受け取り、そのまま傘をさす。速水の服は水を吸い過ぎていて肌に張り付き、髪は雨を滴らせていた。

 こんなずぶ濡れな体で歓迎してくる店を俺は知らない。だからどこを目指すでもなく適当に歩く。

「ねぇ。急にどうしたの。」

 冷たく止まる言葉。

「さっき速水を見つけたから……。」

話したいなって思って。そう続けたかった。

 でもそれを言う資格は俺にはないなって気づいて止めた。その代わりの言葉は出てこない。


「そう。君はいつからヒーローになったの?」

 その言葉には俺を拒絶する類の気持ちが込められていた。

「……。ごめん」

 速水の顔は見れない。速水の横を歩きながら、お互いの傘が当たる距離感で静かに謝る。これで許されるなんて思ってない。

 それでも何故だかわからないけどここで食い下がったら一生後悔する確信がある。

「今日さ、学校にいた?」

「なんでそんなことを聞くの?」

 拒絶。嫌悪。忌避。

「ただ昨日病院で見かけて心配になっただけ」

「へーありがと。でも私のことを考えるならもう近づかないで欲しいな。不愉快だから」

 どんな言葉よりも明確な拒絶。それを今日初めて見る冷めきった笑顔で言う速水。


「それとも、君が私を助けてくれるの?私の代わりにこの沼に嵌ってくれるの?」

 この暗い雨の中でも負けない派手なホテルの看板の前でそう言う彼女は俺の知っている誰よりも

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