存在
昨日と同じで何の意味もない哲学じみたことを、改めて考えると恥ずかしいことを妹に愚痴って妹の病室を出る。
今日、妹の病室で常に頭の中にあったのは速水の姿。まるで誰にも認識されていないように見えた。学校ではあんなに浮いているのに周りに溶け込むこともできるんだって思った。
病院にいたのは風邪にでもかかったから。それが原因で学校を休んだんだ。だから私服も長袖だった。
そんな風に自分で納得して自己解決して、このくだらない思考を終わらせる。
そして昨日と同じような時間帯に電車を乗り、昨日見た景色を見る。
唯一、昨日と違うのは薄暗くなる夜道で一人で暗い裏路地に入っていく速水の姿を見つけたことだった。その怪しげな裏路地は奥まで暗くて慣れない『大人の目』で見ても見えなかった。
『あの通りはただ暗いわけじゃなくて、社会の後ろめたいところに存在している暗さ』だとなんとなく感じた。
それと同時に頭の理性の部分が『あんなところに行く元気があるなら学校に来ればいいのに』そんなことも思う。
速水というイレギュラーがあったけれど、昨日と同じ駅で降りる。そして昨日と同じでとろとろと自転車をこいで偽物の温かさの家に帰る。
「ただいまー。」
この小さな家の一階にいたら聞こえる声で言ったのに、なんの声も帰ってこない。唯一帰ってくるのは母が食器を運ぶ音だけ。
リビングのドアを開ける。
「おお~。びっくりした。驚かせないでよ~。お帰り。」
食器を運んでいた母が驚く。リビングでテレビを見ていた父も同じくらい驚いている。偽物の温かい色の電気。妹が入院し始めてから両親ともにこんな感じになってしまった。
寂しいだとか罪悪感だとかは特に感じないけれど、違和感はある。
近くに行かないと認識してもらえない、この状況に。
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