第13話恐怖、七瀬の正体

会社の出入口の外で杉岡は七瀬を待っていた。心なしか、右足の鈍痛が消えていた。

また、田中ユミと出会ってからは、睡眠薬無しでも眠れるようになっていた。

杉岡の安物のG-SHOCKは17:12を表示していた。

出入口に七瀬が現れた。

「杉岡先輩、お待たせしました。あっ、その足で大丈夫ですか?タクシー拾います?」

「地下鉄で大丈夫だよ。エレベーターあるし。こんな格好なら誰か席譲ってくれるさ」

七瀬は、嬉々としてその前に居酒屋へ行きたいと言い出し、いつもの『夜明け』に連れて行った。


杉岡はホッピーで七瀬は生ビールだった。

「先輩とこうやって、飲めるのは自慢出来ますよ。ありがとうございます。わがまま聞いてもらって」

「誰に自慢出来るんだよ。こんな、三十路の男と飲んで」

「先輩、結構女性社員の間では評判いいんですよ。やった~、女子より先に先輩と飲めて」

杉岡はタコワサのワサビの茎に脳天を衝かれながら、

「ほう。いいだろう。君は今夜、僕の身体を拭くんだよ!大役だ。頑張ってくれ」

「先輩が腐男子で良かった~。マンガ読んでもらえました?『パブロフの犬は喫茶店にいる?』の作者、頭、おかしいですよ!きっと。アハハハ」

「七瀬、作者をバカにするな!」

「そんな怒った顔、僕は好きだな~」

七瀬は3杯目の生ビールを注文した。


「七瀬は、好きな子いるのか?」

七瀬はさっきまでとは嘘みたいに静かになった。

「ごめん。変な質問しちゃった」

「ぼ、僕は杉岡先輩が好きなんです」

「は~?何で?どうして?」

七瀬は生ビールを半分ほど勢い良く飲んで話し始めた。

「だ、だって先輩、顔はいいし、何より身体がカッコいいじゃないですか?僕には、どストライクですよ」

杉岡にとっては、デッドボールであった。


「そんな、先輩の身体を見たら僕は興奮しちゃいます。先輩は僕の事、嫌いになりました?」

「好きも、嫌いもないよ。お前が好きならそれでいいんじゃない?」

「先輩、僕と付き合ってもらえませんか?」

杉岡は困惑した。直ぐ、策士・倉橋にSOSのLINEを送った。直ぐに返事が帰ってきた。

【ウソも可】

杉岡は、七瀬に返事した。

「お前の事は嫌いじゃない。だけど、変な事はしないよ!守れる?後、内緒に出来るか?」

「はいっ。内緒にします。変な事って性的な事ですか?」

「当たり前だ!」

「キスまではいいですか?」

杉岡は策士・倉橋に再びLINEを送る。

【キスも可。ディープも可】

「どうだ、七瀬、取引しよう。絶対に誰にも秘密をばらさない自信があるなら、キスまでは許す」

「やった~」

「後、僕には彼女がいても嫉妬しないこと!」

「じゃ、先輩はバイなんですね?」

「う、うん。お前はゲイか?」

「はいっ!」

「……」


酔った2人は結局、タクシーでアパートへ向かった。まだ、夜の8時過ぎであった。

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