第8話金曜日の夜勤明け

杉岡が夜中のコンテナ船の仕事を終えて、事務所に戻ったのが、朝の8時過ぎだった。

杉岡は同僚の倉橋を見つけると、

「しっあわっせは~歩いてこないっ……じ~んせいはっゼンジー北京~♪」

「お、おはよう。杉ちゃん、なんか仕事でいい事あった?」

杉岡は人差し指を振り、

「ノンノン、明日、ユミちゃんが僕んちに来るんだよ!」

「おっ、では昨日の秘技を駆使して、メロメロにしちゃえ!」

「君の奥さんの性癖に感謝ですたい」

「今日はゆっくり、休みなよ明日の為に。そして、飲み過ぎないように!」

「センキュー、我が友よ!」


杉岡は、コンビニで寝酒用の缶ビールとコンドームを買った。

「はぁ~、今、僕は人生を謳歌している」

と、自宅の南極2号に呟いた。

しかし、もうダッチワイフは必要ない。

この日、エロアイテムは全部捨てた。

玄関からゴミ袋を運びだそうとした。


グキッ!


「いって~、あいたたたっ!足挫いた。立てるかな」

杉岡は挫いた右足の膝をゆっくり伸ばし、立ってみた。

「ウググ。いって~。折れたかな?」

幸い、杉岡のアパートの近くに整形外科がある。尋常ないほど、腫れてきたので右足をかばいつつクリニックへ向かい、やっとの思いで着いた。

医師からレントゲンを撮りましょうと言われ、レントゲン室へゆっくり向かった。

「ヒビ入ってますね。固定しましょう」

と、淡々と話す。

処置室で、右足に金具をくっ付けて包帯でぐるぐる巻きにされた。

松葉づえも渡された。


「はぁ~、なんで、コッタイ。立ちバック練習したのに、何の役にも立たねぇ~じゃねぇか!」

ズキズキ痛む、右足を投げ出し掃除の後で良かったと思った。


土曜日。

夜6時。ユミからLINEが届いた。

『コンビニ、着いたよ!』

指定のコンビニまで、来てもらいアパートまで、案内する事になっていた。

松葉づえを突きながら、コンビニへ向かった。

ユミは杉岡の姿を見るなり、

「君!どうしたの?骨折?」

「いや、ヒビ」

「仕事中に?」

「ま、仕事と言えば仕事だけど」

「私がおんぶしてあげる」

「冗談はよし子ちゃん」

ユミは至って真面目に。

「私、学生時代レスリング部だったの」

「僕は重いよ。65キロあるよ」

「楽勝」

ユミは杉岡をおんぶしてアパートまで運んでくれた。

「ありがとう。助かったよ!さっき、上寿司の出前頼んだから」

「今夜はマッカランよ」

「うわ、高いでしょ」

「7000円だったよ。安いの買っちゃった」

「マッカランと寿司合うかな~」


「君と飲めればいいの。そんな身体ならエッチはお預けだね」

「騎乗位があるじゃん」

「私は立ちバックが好きなのに。特に鏡の前で!」

杉岡は倉橋君の言葉は本当だと、思った。

2人はグラスにロックアイス入れて、ロックで飲み始めた。

杉岡はポツリと呟く、

「あ、あの僕に彼女になって下さい」

ユミは、中トロを手に、

「お願いします」と、返事した。

安堵したのか、杉岡はタバコを吸い始めた。

これが、人生を揺るがす、第一歩だったのだ。

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