第10話衝撃

「ユミ、まさか、男なのか?」

杉岡は、目を丸くしている。

「うん、元男だよ。今は女。手術してないから、戸籍は男のままだけど」

「お、おっぱいは?」

「ん?これ?女性ホルモンを摂ると成長するの。私の事、嫌いになった?」

「い、いや、嫌いとか以前の問題で、ど、どうしよう。男なんだよね?」

ユミは、ウイスキーのロックを飲んでいる。

「君はもっと、視野の広い男の子かと思っていたのに!トランスジェンダーって知ってる?」

「う、うん。教育テレビでみたよ」

「私はMtF。分かんないよね。男性の身体をしてるけど心は女性なの。半年前に君をいつもの喫茶店で見付けて、それから、ずっと君と恋人同士になりたいって思っていたの」

杉岡は、ようやく全てを理解した。

しばらく、沈黙して杉岡は自分で納得したようだ。

「ユミ、お前が男性だろうが、僕はユミが好きだよ!」

ユミは、泣き出した。

「ど、どうした?」

杉岡は心配そうに、ティッシュペーパーを渡した。

「う、嬉しい。叶わない恋だと思っていたから」

「ユミ、もう寝よう。明日もまた呑める日だから」

「うん」

と、ユミは頷いた。

ベッドに横になり、杉岡は腕枕してユミはちょこんと頭を乗せた。


翌朝。

2人は手を繋いで、喫茶店へ向かった。

松葉づえでの、散歩はキツい。

2人でアイスコーヒーを飲んでいると、聞き慣れた声で杉岡を呼ぶヤツがいた。

「よっ、杉ちゃん」

「あっ、倉橋君。君に紹介しよう、彼女のユミちゃんです」

「初めまして、杉岡君と同期の倉橋です」

と、丁寧に挨拶した。

「ユミです」

「ユミちゃん、どこの大学生?」

「倉橋君、この子はね、よんじゅう……いててて」

ユミは杉岡の右足をかかとで踏んづけた。

「あたし、名西大学です」

「杉ちゃん良かったね。こんな女の子ゲットして……杉ちゃん、怪我したの?右足」

「いや、ちょっとヒビが入ってね」

「痛かったね、じゃ、僕は月曜日から杉ちゃんちに寄って行くわ。自動車通勤だから」

「く、倉橋君、ありがとう」

倉橋はじゃっ、と言って奥さんが待つ席に帰っていった。


ユミはニヤニヤしながら、

「私、そんなに若く見える?」

「まっ、45くらいには見えるよ!」

「バカ!」

「でも、どーーする?いつか、ユミが男性だったってバレるんじゃないかな?」

「大丈夫だよ」

「僕はふつふつと、幸せを感じてるんだ。だが、みんなの理解が必要だ。まずは、倉橋だ。彼からカミングアウトしていくよ」

杉岡はチューチュー、アイスコーヒーをストローで飲んでいる。

「浮気してもいいよ!君は健全な男性だし。でも、他の男性は好きにならないでね。君は腐男子要素があるから?」

「ふ、ふだんし?」

「あっ、聞き逃していいよ」

帰りは、ユミがまた杉岡をおんぶした。

道すがら、

「悪いねぇ~、こんなおいぼれジジイを。それにしても、ふくよかな乳じゃ」

杉岡は、ユミの乳を揉んだ。その瞬間、右足を叩いた。

「いって~、何しやがる!」

ユミは笑顔でおんぶしながら歩いて、杉岡のアパートへ向かった。



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