パブロフの犬は喫茶店にいる?

羽弦トリス

第1話いつもの朝

アイスコーヒーにガムシロップ3つにミルク2つ入れ、ストローでかき混ぜて子どもみたいにコーヒーを飲んでいる男の名は、杉岡智弘、35歳。

彼には妻も彼女もなく、仕事はただ惰性で会社に勤めている。彼の会社は名は知られてないが、全国の港にある会社で、詳しく説明すると公益法人の職場で、杉岡は会社員ではなく団体職員なのだ。だが、人に話す時は面倒くさいので、会社員と言っている。

杉岡は、歳の割りには若々しく、ワイシャツを着ていても腕の太さが分かるほどで、いつも筋肉質な身体はジャケットで隠されいる。

杉岡は週刊紙のグラビア写真を見ながら、ニヤニヤしている。

彼は会社では主任と言う役職だが、一番必要ない肩書きは『主任』だと考えていた。

会社は9時からなので、朝は決まって喫茶店なのだ。

隣の席には、綺麗なお姉さんが1人で座ってコーヒーを飲んでいる。

それを、横目に杉岡は席を立ち会社へ向かった。


会社に着くや否や、課長の前田が杉岡の姿を見ると、声を上げた。

「杉岡、お前、昨日コンテナ9本密輸したな?」

「密輸ですか?」

「そうだ。昨日のコンテナ船の書類で9本分のコンテナナンバー載ってねぇぞ!」

杉岡は現場を知らない課長に、

「9本分は後で、税関に書類を持って行きます。それで、大丈夫です」

「そうか。そんな事出来るんだな」

「事後でも、大丈夫です」

前田は自分の席に着いた。課長は大の酒好きで、杉岡は九州出身なので事あるごとに焼酎を注文してくる。もちろん、焼酎代はもらっている。


杉岡の仕事は時間が不規則である。貿易団体であるここは、輸出輸入船に乗り込み、自動車や機械部品が抜けなく、船に乗ったか、または船から出たかチェックするのだ。所属先は、『船舶課』なのだから。

だから、夜中の仕事も多い。船は容赦なく夜中でも着岸するのだ。

杉岡は会社には、黙っているが睡眠障害を発症させてしまい、半年前から心療内科に通う様になっていた。

土曜日は休みだが、いつもの喫茶店へ行く。

また、週刊紙の女の子の裸を見てニヤニヤしている。そして、また、昨日の綺麗なお姉さんが1人でコーヒーを飲んでいた。きっと、カッコいい彼氏がいるんだろうなと思いながら、心療内科へ向かった。

診察を白いソファーに座り待っていた。スマホで天気予報を確認していた。雨の日の仕事は最悪なのだ。しばらくして、顔上げると杉岡はドキリとした。

隣に、朝のお姉さんが座っていたのだ。

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