第12話腐男子になろう計画

杉岡と倉橋は行きつけの居酒屋『夜明け』のカウンターに座り、生ビールを飲んでいた。

「どうしよう?倉橋君。みんなを説得させるって!」

倉橋は枝豆を口に放り込み、こう答えた。

「説得と言うより、納得させるんだ!」

「倉橋君の言葉の意味が……」

「杉ちゃんさ~、まっ、顔は悪くないし、身体つきも問題ない。だから、元々、腐男子だったって事にすればいいじゃない?」

「き、君は本気か?俺が腐男子~」

「新人の七瀬知ってるだろ?アイツ、実は腐男子なんだ。この前、夜勤の合間にBL系のマンガ読んでたんだ。杉ちゃんなら、七瀬と気が合いそうだ」

杉岡は生ビールのお代わりをして、それを一気飲みした。

「はぁはぁ、く、倉橋君、僕にゲイになれと言うのか?」

「ま、見せかけだけ、ゲイ。それなら、ユミちゃんだっけ、みんなが納得するさ」

「倉橋君、顔は大人しいイケメンなのに、考え方は大胆だね。よし、ユミの為だ、腐男子でも、ゲイでも構わない」

倉橋は、ビジネスバッグから数冊のマンガを取り出した。


「な、何このマンガ?」

「七瀬から借りたんだ。杉ちゃんも好きだから貸してって言ったら、仲間が出来たって喜んでいたよ」

「あ、ありがとう」

「明日、七瀬を自宅に呼んでみたら。右足、ヒビ入ってるから、お風呂も大変でしょ?清拭してもらえばいいじゃん。明日、七瀬に頼んでみる。たぶん、喜んで引き受けてくれるよ!」

「あ、ありがとう。この作戦は失敗は許されない。ちんこを膨らませようではないか!」

「じゃ、明日の成功を祈って乾杯!」


翌日、船舶課の杉岡は海上作業課の七瀬に書類を持ちに行った。

「七瀬、少し話があるんだ。喫煙所行こうか」

七瀬は不安気な様子で、

「は、はい。杉岡先輩」

杉岡はハイライトに火を着けたが、七瀬はアイコスだった。

「話しってなんですか?」

「七瀬君、君は腐男子なんだって?」

七瀬は顔を紅くして、小さな声で搾り出すように、

「は、はい」

「そうか、実は僕もなんだ。BL系のマンガ面白いよな」

「ま、まさか杉岡先輩も腐男子だったなんて、昨日、倉橋さんがちょっと先輩もBL系マンガ好きだって言ってらしたので……」

「今夜、頼みたい事があるんだ。僕は見ての通り右足をケガしている。お風呂が一苦労なんだ。だから、清拭を頼みたいんだが……」

「せいしき?」

「身体を濡れたタオルで拭いてもらいたいんだ。いいかな?」

「ぼ、僕は課は違いますが、杉岡先輩……杉岡主任がずっと気になってました。変な意味じゃなくて、憧れでした。是非、身体を拭かせて下さい!」

「ありがとう。また、夕方会社の外で待ってる。残業しないでね」

「は、はい」

七瀬は腐男子てか、ゲイかも知れないと手応えを感じた。

直ぐに倉橋にLINEメッセージを送った。

【トラ・トラ・トラ】

直ぐに通知音が鳴る。

【ラジャー】

七瀬よ、ダシに使ってすまない、と思う杉岡だった。


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