サイワイ【5】
「ごめん。ずっと一緒にいたかったに決まってるね。彼女は長年の悲願を達成することで、未練を残さず世を去った。冥界まで連れてこられても生前の自我を保った奴なんて、自分の罪を忘れちゃならないほどの大罪人か、そうでなけりゃ、大なり小なり思い残すことがある連中くらいだよ。だから、自我なんてないまっさらな状態の魂になってるほうが望ましい。幸い、オレたちには判別可能だから困らないしね」
望ましいという言葉とは裏腹に、彼は沈痛な面持ちで弔うように語り続ける。
「オレがもし、人間で……いや、キミの立場なら、彼女の死因は変えないな。会いに行って、願いを叶えるまでは同じだと思うけど。あえて未練を残すようにして、
いやに親切な雇い主は、やはり神の一柱だ。
彼の神話における所業を思えば、そのような過激な感想を抱くのも不自然なことではない。
「それは……はい、その通りです。それでも、俺も彼女も生を終えた者同士です。彼女とは一緒に生きたかった。ずっと隣で年を重ねていきたいというのが俺の望みであって、死んでからでは遅すぎます。そうでなくては『添い遂げた』とは言えませんから。死後に結ばれても、それはまやかしに過ぎません。次の人生でもう一度、という気持ちがないわけではないですが、俺は転生までかなり時間が掛かるでしょう。死神の仕事もありますしね。となると、願うことは『アキノがなるべく早く生を受けて、今度も幸せな人生を送ること』なんですよ」
「さらっと惚気たね? まあ、この子は確かに幸せだったと思うよ。一緒にお墓に入りたいとまで言った相手に、今もここまで想われてるんだ。子ども向けとは言えないけど、こんな姫と王子がいたっていいだろう。キミたちをモデルにした童話、書いてもいいかい?」
急な提案に戸惑うが、気まぐれで多忙なハーさんのことだ。実現する可能性は限りなく低いだろう。
とはいえ、ふたりの人間の軌跡を残したいと思ってくれたことがとても嬉しかった。
「お好きにどうぞ。もし本当に書いたら俺にも読ませてくださいね。覚えて、聞かせてあげたいひとがいるんです。……叶うかわかりませんけど」
前世と同じように童話を好む保証など全くないが、魂の傾向として刻まれていることを祈りたい。
「もちろんだよ」
彼は今日一番の笑顔でそう言って、彼女の魂のほうに向き直る。
「長話をしてしまったね。……うん、確かに回収確認したよ。今回もありがとう」
「はい。では、よろしくお願いします」
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