サイアイ【3】


「そうなのかもしれません。でも、あなたはそれでいいんです。そこも含めて、私はあなたが好きなので。それに、人間には他の手段も用意されてるんですから。いつでも心の中全部を、言葉にして表さないといけない、なんてことはないんです」


 彼がしてくれたことのひとつひとつを思い返しながら、必死になって伝える。


「そうか……うん、ありがとう。きっとそうだね。君の言う通りだ。人間は贅沢だねえ」


「ええ、とても幸福な生き物です。でも、考えてみれば、私も全然ダメでしたね。あなたのことが大好きなのに、ちっとも素直になれなくて。本当に、ごめんなさい」


「ううん。そこはお互い様だし、まさに今言ってもらえて嬉しいよ。まあ、どうしても気にしちゃうなら、これから伝えてくれたらいいんじゃない?」


 これからなんてないくせに、と言いたい気持ちをぐっと押し殺して、彼がしらを切れるぎりぎりの答えを探す。


「……今日のあなたは、嘘つきですね」


「え? やだなあ。ほんとはもっと言ってほしいのバレちゃった?」


 優しい私の死神さん。いいえ、愛するベターハーフ。苦し紛れの咄嗟の嘘も、気付かないふりしてあげる。今回だけは特別に。


「バレバレです。……ルトさん、大好き。愛してます、あなたを」


 薄い耳に唇を寄せて、精一杯の愛を流し込む。乗せきれなかった激情は、お腹の底でぐるぐる回る。


「ありがとう。先に言われちゃったね。君はどんなお返しがお望みかな?」


 少し赤くなった頬を軽く掻きながら甘く囁く彼は、しきりに壁の時計を気にしている。


 長針と短針はぴたりと重なる直前で、まもなくやってくる一日の終わりを惜しむように寄り添っていた。

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