サイアイ【4】
「なんだって嬉しいですよ、あなたがくれるものなら」
「そう? ……なら、目を閉じて」
言われるがままに目を瞑ると、次第に眠気を催してきた。
いつまで経っても訪れないぬくもりに、口付けの予感に膨らんだ期待はみるみるうちに萎んでいく。
「キス……してくれないんですか? 待ってるのに……」
「ごめんごめん。するよ。そしたら、今日はもう寝よう。疲れてるでしょ?」
頬にかかった髪を払ってから、あやすように頭を軽く撫でられる。
「疲れてるけど、まだお話してたいです……話したいこと、聞きたいこと、いっぱいあるの…………」
眠気のせいか、うまく回らない舌に鞭を打って訴える。
「俺もまだまだ話し足りないけど、また今度ね? すごく眠そうな顔してるよ」
「約束ですよ……?」
知らぬ間に覆い被さっていた彼に縋り付けば、一瞬強く抱き竦められ、余韻を味わうようにゆっくりと体が離れていく。
「……うん、約束」
いつか水族館でしたように、差し出された小指に自分のそれを絡めると、整った顔が近付いてきた。
「アキノ、愛してる」
私も、と返したいのに、体も意識も沈んでいく。
瞳に浮かんだ慈愛に見え隠れしていた物悲しさの正体にも辿り着けないまま、瞼が閉じて……
「……おやすみ」
最後に残ったのは、ふっくらとした唇の感触だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます