サイアイ【4】


「なんだって嬉しいですよ、あなたがくれるものなら」


「そう? ……なら、目を閉じて」


 言われるがままに目を瞑ると、次第に眠気を催してきた。


 いつまで経っても訪れないぬくもりに、口付けの予感に膨らんだ期待はみるみるうちに萎んでいく。


「キス……してくれないんですか? 待ってるのに……」


「ごめんごめん。するよ。そしたら、今日はもう寝よう。疲れてるでしょ?」


 頬にかかった髪を払ってから、あやすように頭を軽く撫でられる。


「疲れてるけど、まだお話してたいです……話したいこと、聞きたいこと、いっぱいあるの…………」


 眠気のせいか、うまく回らない舌に鞭を打って訴える。


「俺もまだまだ話し足りないけど、また今度ね? すごく眠そうな顔してるよ」


「約束ですよ……?」


 知らぬ間に覆い被さっていた彼に縋り付けば、一瞬強く抱き竦められ、余韻を味わうようにゆっくりと体が離れていく。


「……うん、約束」


 いつか水族館でしたように、差し出された小指に自分のそれを絡めると、整った顔が近付いてきた。


「アキノ、愛してる」


 私も、と返したいのに、体も意識も沈んでいく。


 瞳に浮かんだ慈愛に見え隠れしていた物悲しさの正体にも辿り着けないまま、瞼が閉じて……


「……おやすみ」


 最後に残ったのは、ふっくらとした唇の感触だった。


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