サイワイ

サイワイ【1】


 彼女のそばを離れられないまま、どれだけの時間が経過しただろう。


 隣で眠れば、必ずと言っていいほどお転婆な手足に起こされたものだが、その彼女は身動ぎひとつせず横たわったままだ。


 忘れないうちにと抜け出ていた魂を保管容器に誘導していると、数週間前の記憶が蘇ってきた。









「彼女の死因を別のものにしたいらしいけど、それについて詳しく聞かせてもらっていいかな」


 ある日、ハーさんに呼び出されて執務室に入ると、開口一番そう尋ねられた。


「はい。ここまま行くと、アキノは路上で喧嘩中のカップルの片方に刺されて死にます。元々、揉め事や困っている人に気付いても、見て見ぬふり決め込んで……そういう場面で仲裁に入るような子じゃなかったのに」


 最初は冷たい人間だと思っていた。でも違った。


 どんな些細なことであろうと一度でも関わりを持った相手をとことん甘やかしてしまうあの子は、親睦を深める人間を吟味しているだけだ。


 当の本人は自身の性質に無自覚なようだったが。


 いつだか記憶力に自信がないと言って悩んでいたのも、一種の防衛本能のようなものだろう。事あるごとに関わった人間を心配していてはキリがないから。


「散々な言われようだねえ」


「事実ですから。でも俺は、彼女はそれでよかったと思ってます。そのままでいてくれたらよかったのに。俺と付き合い始めてからは、そういう事を無視出来なくなったみたいで……。全部、俺のせいです。俺が彼女の死期を早めたようなものです」


 寿命というのは生まれた瞬間に定められており、どのように過ごしたとしても不変のものであるのかもしれないが、自分を責めずにはいられなかった。




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