サイカイ【6】
「それもそうですね。私、アキノって言います。好きなように呼んでください」
「よろしく、アキノちゃん。俺はハルト。こっちも好きに呼んでほしいな」
どちらも苗字のようだと揶揄されがちな下の名前を教えると、彼はそれについては何も言わず、はにかんで姿勢を正す。元から背筋が伸びていたので、あまり大きな変化はなかった。
「ハルト……さん。名前まで一緒」
「そうなんだ。すごい偶然だね」
「あれ、私の彼氏って設定はもうやめちゃったんですか?」
「だって君、半信半疑じゃない。それなのに彼氏を名乗られても不快だろうし」
名乗るといえば、彼は私の名前を呼ぶ気はないのだろうか。
今も先ほど告げた名前ではなく『君』と呼び掛けたのは、気遣いからか、気まぐれか。この先も頑なにそれを押し通すつもりでいるのかもしれない。
しかし、無機質な二人称からは何も読み取ることが出来なかった。
「あの、お心遣いには感謝しますけど、お兄さんのことは半分も信じてませんからね」
「しっかりしてるねえ。ひとまずは俺、初対面の馴れ馴れしくて怪しいお兄さんってことで」
彼に倣って他人行儀を継続してはいるものの、若干心の距離は縮まったような気がする。
「自覚あったんですね……」
「うん! それはそうとして、そろそろ聞かせてほしいなあ。君の行きたいところがどこなのか」
からりと笑った彼の瞳は、いたずらの算段でも立てているかのように輝いていた。
「ああ、そうでしたね。実は……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます