サイカイ【6】


「それもそうですね。私、アキノって言います。好きなように呼んでください」


「よろしく、アキノちゃん。俺はハルト。こっちも好きに呼んでほしいな」


 どちらも苗字のようだと揶揄されがちな下の名前を教えると、彼はそれについては何も言わず、はにかんで姿勢を正す。元から背筋が伸びていたので、あまり大きな変化はなかった。


「ハルト……さん。名前まで一緒」


「そうなんだ。すごい偶然だね」


「あれ、私の彼氏って設定はもうやめちゃったんですか?」


「だって君、半信半疑じゃない。それなのに彼氏を名乗られても不快だろうし」


 名乗るといえば、彼は私の名前を呼ぶ気はないのだろうか。


 今も先ほど告げた名前ではなく『君』と呼び掛けたのは、気遣いからか、気まぐれか。この先も頑なにそれを押し通すつもりでいるのかもしれない。


 しかし、無機質な二人称からは何も読み取ることが出来なかった。


「あの、お心遣いには感謝しますけど、お兄さんのことは半分も信じてませんからね」


「しっかりしてるねえ。ひとまずは俺、初対面の馴れ馴れしくて怪しいお兄さんってことで」


 彼に倣って他人行儀を継続してはいるものの、若干心の距離は縮まったような気がする。


「自覚あったんですね……」


「うん! それはそうとして、そろそろ聞かせてほしいなあ。君の行きたいところがどこなのか」


 からりと笑った彼の瞳は、いたずらの算段でも立てているかのように輝いていた。


「ああ、そうでしたね。実は……」


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