サイカイ【7】
「へえ、すごいなあ。よく出来てるね」
「ほんとですね……」
私たちが眺めているのは、かぼちゃの馬車のオブジェ。童話をモチーフにした公園の一角に、最近完成したばかりのものである。
ライトアップされたそれは、今にもお城に向かって走り出しそうな迫力があり、とても美しい。
思わず見惚れてしまい、返事も疎かになる。私に着いてくるような口振りだった彼は、わざわざ車を出して、ここまで連れてきてくれたというのに。
「昼間に来たらまた印象が変わりそうだねえ」
「はい! きっと素敵です。今度はお昼にも来たいなあ……でも、ここへはまず夜に来たいと思ってて。シンデレラが舞踏会に行く場面、とてもワクワクして好きなので、ますます想像が膨らみます」
彼は嫌な顔ひとつせず、私の熱弁に耳を傾け、時折うんうんと頷く。
「そっかあ……うん、叶ってよかった」
偏見まみれの第一印象を見事に裏切った彼は、親切な魔法使いのように呟いた。
プリンセスじゃない私の願いを悠長に叶えていていいのかな。こんなに素敵なひとだもの、きっと彼は王子様の顔も持っている。ごめんなさい、
「ここって駅からわりと離れてるし、ひとりで来るのも寂しかったから、一緒に来てくれてありがとうございます。運転までしてもらっちゃって……あの、帰り? 帰りでもないか……えっと、次の目的地まで、私が運転代わりましょうか? あっ、他人に車触られたくなかったらあれですけど……」
別人のはずなのに、彼といるときに酷似した安心感にすっぽり包まれて、惑わされてしまいそうになる。
このままではいけない。私が好きなのは、この人ではない。とてもよく似た別のひとだ。今にも芽吹く寸前の恋心を地中深くに埋め直そうと、早口で捲し立てる。
「どういたしまして。気持ちは嬉しいし、君になら安心して任せられるけど……運転は好きだから、させてほしいな。っていうか、もう帰るつもりでいるけど、いいの? 写真撮影とかしなくて。俺撮るよ? さっき見てきたけど、中入ってもいいみたいだし、せっかく来たんだから、もうちょっとここにいてもいいと思うけどなあ。君が急ぎたいなら、そうするけどね」
軽く振られたスマートフォンの画面を覗くと、既にカメラアプリが起動されていた。
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