メイカイ【3】
「いいんですよ。そういえば、今ってどこに向かってるんです? なんだか懐かしい景色のような」
ずっと彼のほうへ向けていた首が痛み出して仕方なく一度前を向くと、特徴的な建造物が目に入る。
「俺の家だよ。大丈夫、変なことはしないさ」
「ああ、やっぱりそうなんですね。そこは信用してますけど、他にもまだまだ聞きたいことがあって……」
「答えられることなら全部答えるよ。さあ、なんでも聞いて?」
得意気にしている彼を横目に、質問を整理する。
「今のあなたはどういう状態なんですか? 死者? 生者? 手も握れたし、運転も出来てるから、少なくとも実体はあると思っていいんですよね」
「うん、実体はあるよ。定義としては……死神かなあ」
「死神、ですか?」
身の丈ほどもある大きな鎌を持ったおどろおどろしい姿の異形を思い浮かべる。
今日は、しつこく根を張る固定観念と、とことん向き合わされる日だ。
「たぶん、君が考えてるほどすごいものじゃないよ。っていうのも、死神は腐るほどいる。それでも人手不足なんだけどね。俺はそのうちの一人ってだけだよ」
「人間は死神になれるものなんですか……話してると聞きたいことがどんどん増えていきますね。でも、まずはそうなった経緯から教えてほしいです」
「うーん……経緯というか理由かもしれないけど。冥府に行ったら、位の高そうな人がいてさ。その人、この世の終わりみたいな顔で頭を抱えてたから、話を聞いてみたんだよ。そしたら、『これから人間界は死亡者の多い季節になるのに、死神が足りない!』って。あまりにひどい嘆きようだったから、『それって人間にも出来ます? 俺にやれるなら、なりますよ』って立候補した」
死神のなり手不足という予想外の冥界事情もさることながら、彼のお人好し加減にうまい返しが見つからない。
そもそも、死後も人間は人間と言えるのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます