メイカイ【4】


「ええ……?」


「びっくりするよねえ。その人……、あとでわかったんだけど、ハーデース様だったらしくて。彼曰く、生前に一定以上の悪事を働いた人間は、労役みたいな感じで死神の仕事をさせられるらしくてね」


「死神の仕事」


「もちろんそれには期間が設けられてて、終われば解放されるんだけど……ここのところ、新入りの数が激減してるっぽくてさ。要は、出て行く数に対して、入ってくる数が少なくなっちゃってるってことだね。人間界でもよくある問題でしょ?」


「そうですね。そういう話は結構聞きます」


「一時的なものかもしれないけど、いま困ってるんだから、すぐ助けたいじゃん。遠い未来なんかじゃなくて。スカウトしようにも、『死んでからも労働なんて、御免被りたいね』とか『わざわざ悪い奴らと一緒になって働くわけないっしょ』とか言われて、なかなか人が集まらないみたいだしね」


 詳しく話を聞いていくと、死に際まで人助けをしていた彼らしい理由に合点がいった。


 死因は、横断歩道に侵入してきたトラックから歩行者を庇った事による轢死。


 お人好しにも程があると、当時は彼の善良さを恨んでいた。だが、それを見殺しにするような人なら、きっと好きにはならなかっただろう。


「なるほど。それなら納得できますね。あなたらしい動機です。死んでからも人助けを続けてるなんて……ふふ、ルトさんは本当に変わりませんね」


「自薦他薦問わなくて本当によかったよ。俺ひとり増えたところで焼け石に水だろうけど、微力でも無力よりはマシかなあ、って」


「あなたなら百人力ですよ。ところで、軽く流しちゃったんですけど、死神って実体あるんですね。まずそこに驚きです」


「ああ、俺は例外だろうね。って言っても、俺も今日初めて実体化したんだけどさ。基本的に死神はみんな幽体だよ」


 軽い気持ちで尋ねたつもりが、返ってきたのは衝撃の事実とすぐには処理できない濃度の情報で、途端に頭が混乱する。


「何から何までイレギュラーすぎませんか……?」


「あはは、確かにそうかも! でも、そもそも死神って、死期が近付いた人間を迎えに来る存在じゃないんだよ。死んで肉体から分離した魂を回収する係みたいな。特にノルマは設けられてないけど、早くしないと冥界擬きに連れて行かれちゃうから、人手不足も結構深刻な問題なんだよね。……って、ちょっと話が逸れちゃった。とにかく、魂を回収するだけの存在だから、人前に姿を晒す必要はおろか、人の体に触れる必要もないんだよ。だから、死神は実体を持たない」


 彼からもたらされた情報を整理すると、死神というのは本来、人間には知覚できない存在らしい。

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