メイカイ【2】


 少しグレードアップしたその願望ゆめと再会したのは、ルトさんに恋をして間もない頃だった。


 このひとと生きたい。死ぬときまで一緒にいたい。


 いや、それでは不十分だ。このひととは死んでからも離れたくない。離れるものか。


 死後も彼とともに在るために出来そうな努力ことと言えば、一緒のお墓に入ること。


 そのためには、やはり結婚という形式をとったほうが手っ取り早いのではないか。


 そうして、大人になった少女の夢は、『愛するひとと結婚し、同じ墓に入ること』になった。


 言葉にしたら泡沫のように消えてなくなりそうなその夢は、気休め程度のおまじないのように、誰にも言わず、ひとり胸に秘めている予定だった。


 何を思ったか、私はそれをある日のデートの途中で洗いざらい打ち明けてしまった。


 それを聞いた彼は「約束」と微笑み、立てた小指を差し出して――……


「覚えてるさ。俺だって同じ気持ちだからね。君と違う場所に眠るなんて考えただけでゾッとするよ。とても耐えられそうにない。ああ、でも……生きてるうちに叶えられなくて、本当にごめん」


 あのとき、どうして彼に話す気になったのか。なにかきっかけがあったはずだが、思い出せそうにない。


 だが、曝け出した幼い願いが時を越え、彼が彼であるという証明となってくれた今は、それも些細なことかもしれない。


「いえ、謝らないでください。なるほど、約束ってそういう……確かに、してくれましたね。……ちょっと理解が追いつかないんですけど、信じるしかないみたいです。あの夢は他の誰にも話したことはありませんし、あなたがそれを誰かに話すこともまずないでしょうし。ね、ルトさん?」


「またそのあだ名で呼んでくれるんだね。ありがとう、アキノ」


 零れ出た愛しい名前に目を細める彼も、ようやく私を名前で呼ぶ。耳をくすぐるその響きが心地好い。


「ルトさんこそ。やっと私の名前言ってくれましたね」


「気付いちゃってたか。ごめんね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る