メイカイ

メイカイ【1】


「言っておきたいこと?」


「そう。俺の目的について。『冥界デート』なんて誤魔化してきたけど、本当はそれだけじゃない。確かにそれも嘘じゃないけど、建前みたいなもの。俺は、君との約束を果たすために来たんだよ」


 彼は真剣な話をするとき、語尾のやわらかさがいくらか削げ落ち、時折、あのひとを思い起こさせる口調へと変化する。


「約束……?」


 彼が誰であろうと心当たりなどまるでない。


 それとも私は、あれだけ忘却に備えていたはずの彼との思い出さえ消し去ってしまっているというのか。


「覚えてないかもしれないね。だから、これは完全に自己満足なんだけど」


 固唾を呑んで次の言葉を待つ。長い睫毛が作り出す影が、この世のものとは思えないほど神秘的な美しさを引き立てていた。


「『一緒のお墓に入りたい』って言ってくれたよね」


「どうして……それを」


 彼の口から紡がれたのは、私の切実な願いだった。


 幼い頃から私は幸せな結末ハッピーエンドで幕を閉じる童話をこよなく愛していた。


 そんな夢見がちな少女が、物語に抱いていた唯一の不満。それは結ばれたふたりの愛の行く末だった。


 せっかくの綺麗な着地も、彼女に言わせてみれば尻切れトンボ。もし自分なら、好きなひとと結婚するだけでは満足できない。


 結婚という形式に拘らなくとも、その先の人生をともに生き切って、最期まで駆け抜けたい。


 しかし、あくまでそれは自分の願望であり、個人の感想だ。


 登場人物たちの幸福は、『めでたし、めでたし』の一文により、すっかり約束されているようなもの……そう自分を宥め、数多いる読者たちと同じように、物語の続きを幾度となく想像することで、もどかしい思いに蓋をした。

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