サイカイ【4】


「……案外ノリがいいよね」


「なにか言いました?」


「ううん、やっぱり君が好きだなあって思っただけ!」


 悪気などこれっぽっちもないのだろう。いとも容易く吐き出される好意に、針で刺されたような心地がした。あのひとからは、あまり言われた覚えがないものだから。


「何それ。会ったばかりなのに、もう好きだなんて。やっぱりノリが軽いなあ。話しやすいからいいけど、気を付けたほうがいいですよ。あんまり誰彼構わず言ってると、勘違いされちゃいます。お兄さん、とってもかっこいいですし」


 別人とはいえ、恋人とそっくりな顔をした人物に不意打ちで好きと言われ、頬がほのかに熱を帯びる。


「そうだねえ。肝に銘じておくよ。でも、冗談だと思われるのは心外だなあ。好きになるのに、過ごした時間の長さなんて関係ないよ」


「……そうかもしれませんね。あの、本当に私の行きたいところにも行っていいんですか?」


 願ってもない申し出に思わず前のめりになる。前々から訪れてみたい場所があったのだ。


「うん。急にこんなこと言われても困るかな。ないならないで、全然構わないけど」


「ううん、あります。でも、ちょっと遠いところだから、本当にいいのかなって」


「遠い? 冥界と比べても?」


 茶目っ気たっぷりに引き合いに出されたのは、出会い頭から提示されている地上のどこより遠い場所。


「いえ……きっと、ずっと近いですね」


「だよねえ。だから、気を遣わないで。君の行きたいと思う場所に行こう」


 こちらに気を遣わせまいとする配慮に、警戒心が緩んでいくのを感じた。


「はい。では、遠慮なく」


「よし! そうと決まれば、これからの予定について軽く話し合おうか。格好からして仕事終わりだろうし、どこか入ろう。出掛けるのは、ひと息ついてからでも遅くない」


 ふたりで辺りを見回すと、ほぼ同時にファストフード店の真正面で話し込んでいたことに気付いた。


「ちょうどいいところに」


「そのためにここで声掛けたわけじゃないんですね」


「偶然だよ。希望があれば他行くけど、どうしたい?」


「いえ。特にないですし、こちらにしましょう」

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