サイカイ【3】


「……信じて、もらえないかあ」


 彼は、ぽつりと落とされた呟きに違わず力なく微笑む。


「ちょっと、そんな顔しないでくださいよ。嘘つきのくせに」


「嘘つき、ね……」


 悲しげに目を伏せ復唱する彼を置いて、さっさとその場を去ることも出来たが、勝手に開いた口は謝罪の言葉を流暢に綴り出す。


「……すみません。ひとつ訂正を。私はまだ、あなたが私の彼氏だと信じたわけではありませんが。馬鹿正直にすべて打ち明けて、隠し事をよしとしないところや、私の意思を常に確認してくるところは、あのひとと重ならなくもないです。さっきだって、行き先をはぐらかして強引に連れ去るくらい造作もなかったはずです。なのに、あなたはそれをしなかった。少なくとも、それらの点においては信頼できます。あなたのことをよく知りもしないくせに、嘘つきだなんて決めつけるべきではありませんでした。本当にごめんなさい」


 最後に軽く頭を下げる。ひと息に言い終えて上を見ると、彼は慌てたように両手を胸元で左右に振っていた。


「そんな、謝らないで。俺も君に会えたのが嬉しくて、かなり浮かれちゃってると思うし。それより、ありがとう。そんな風に思ってくれてたんだね。……あのさ、信じなくてもいいから、人助けと思って、ちょっと付き合ってくれないかな?」


 彼の死後から私は『人助け』という単語にめっぽう弱くなっていた。もっとも、断る気などとうに失せていたのだが。


「どこまで?」


「さっきも言ったように目的地は冥界。だけど、ほかに行きたいところがあれば、そこに寄ってからね」


「いいですよ」


「やっぱりダメかあ。だよねえ……って、え? 本当にいいの?」


「はい。せっかく早く上がったのに、帰っても特にすることないですし。お兄さんと話すの楽しいですから。しましょう、冥界デート」


 肯定の二文字だけ伝えるつもりだったのに、するすると連なって躍り出た口実は、自分に対する言い訳でもあるのかもしれない。

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