サイアイ

サイアイ【1】


「……こうやって繋がれると、本当にドウケツエビになったみたい」


「運命共同体的な?」


 カイロウドウケツの内部に入った二匹のエビは、そのうちオスとメスに分たれる。


 一対はその中で生活し、いずれ子を成して死んでいく。入れば最後、広がりなどありはせず、ただ互いとともにある一生。


 だが、私にはその生涯が至上の幸福であるかのように感じられた。閉じたなかで育まれ、やがて綴じていく物語。


 その中でひそかに生まれるものは、愛や次世代だけでは決してないはずだ。


「でも、入ってからも外しちゃ嫌ですよ? 今日はこのまま眠りたいです」


 最初から別の場所で生まれ育ったあなた。最期をともに出来なかった最愛のひと。


 せめて、ふたりの最後くらいは、なるべく近くで迎えたい。あなたが用意してくれたこのやさしい檻の中で寄り添って。


 死神が生者の元に降り立った意味くらい、とっくに気付いている。私の人生じかんも残り少ないのでしょう?


 そのときまでは、どうか……そばにいて。


「そうしたいのは山々だけど、このままだと君のこと、思いっきりぎゅーって出来ないんだよね。困ったなあ……」


 可愛らしく突き出した唇は、羨ましいくらいに皺が目立たない。


「その言い方はずるいです。……仕方ありません、外していいですよ。その代わり、沢山ぎゅーってしてもらいます」


「言われなくても、そのつもり」


 束の間の拘束が解かれ、宣言通り全身で包み込まれた。


 彼の首に腕を回すと、流れるように抱き抱えられ、ベッドにゆっくり降ろされる。


「これで完璧にドウケツエビだね」


 外した手錠をナイトテーブルに置いてから、彼は私の隣に寝転がって言った。


 よく見るとランプの部分がクラゲのような形をしている。


「そうですね。いまの私たちはドウケツエビの夫婦です」


 近くにいるのに触れ合わない体が切なくて、遠慮がちに彼の手を握る。


 きゅっと握り返されたかと思うと、今度は指を絡めて恋人繋ぎの形に直された。


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