サイワイ【4】
「残念ながら違います。というか、謝らないといけませんね。これ、せっかく貸していただいたのに、結局一度も出番がありませんでした。すみません。でも、いざとなったらこれがついてると思うと、それだけで勇気付けられました。本当に感謝しています。ありがとうございました。……というわけで、遅くなりましたが、お返しします」
取り外したネクタイピンを両手で渡す前に、押されることのなかった側面のスイッチを軽くなぞる。
「どういたしまして。確かに受け取ったよ。ずっと使ってなかったから、あげるつもりだったんだけど、今のキミにも必要ないもんね。……さあ、ゆっくりおやすみ」
彼は受け取ったピンを一旦手元に置いてから、右脇で重厚な存在感を放っていたジュエリーボックスを開く。
ひとつ空いた場所にそれをそっと仕舞い込む表情は、赤子を寝かしつける人間の親のようで印象的だった。
「それで、本題に入るけど。本当にこれでよかったのかい?」
「……これ以上ない、結末かと」
駆けずり回って懸命に手繰り寄せたのは、せいぜいビターエンド、高く見積もってもノーマルエンド。
だが、自分に成し得る結果としては最良だったと思いたい。
「ふうん。オレに言わせてもらうなら、とんでもないバッドエンドだけどなあ?」
まるで
「受け取り方は、人それぞれですから」
彼女の魂を引き渡すために保管容器を開けると、飛び出てきたそれは忽ち生前の姿を再現した。しかし、そこに自我はない。
「そりゃあそうだろうけどさ。キミたちには結ばれてほしかったんだよ」
彼は彼女をひと目見て顔を顰めた。調べるまでもなく、自我を失っていることがわかったのだろう。
「俺だって……」
握り締めた拳が痛い。
出来ることなら添い遂げたかった。それは叶わなかった。もう二度と離れたくないと思った。
だが、それも叶えることは出来なかった。
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