救世主 やめ?
「だからさ、ここはオレの思い描いてた異世界と違うんだって。オレの思い描いてたのは、女の子に囲まれてエッチな展開になって何でもない顔であしらってみたり、チートで無双して戦いはもういいやなんつってスローライフだったりするんだよ。何ここ、怖い王様や従者とか男ばっか、女の子の影もなければ、チートしようにもスキルわかんないし。だいたい、救世主って何するんだよ」
(自称)アーサーは、一気にまくしたてた。
「落ち着いてくださいよ。あなた次第って言ったでしょ」
「オレ次第?」
(自称)アーサーは、神の胸倉を掴もうとした手を、ぴたりと止めた。
「そう。どんな救世主になるのかは、あなた次第」
「オレ次第???」
「そう。こっちはキャンペーンで『誰でもいいから送る。お題”救世主”』で送っただけだから。お好みの救世主になってね☆」
(自称)アーサーは、神の胸倉を掴んで、がっくんがっくん振り回した。
「何だよそれ! 帰る!! もー帰る!!! 救世主なんてやめてやる!!!」
「帰れませんよ」
「なんでだよ!!!」
「あなた、名乗っちゃったでしょ」
「は?」
振り回す手が止まる。どゆこと?
「王様……現地の人に、『アーサー』って名乗っちゃったでしょ」
アーサーだって、アーサー。ぷぷぷ、と笑ってる神を、もう一回がっくんがっくん振り回す。
「笑うな!!!」
「顔真っ赤ですよ。アーサーねぇ、似合ってないですよ」
「王様にも言われたわ! それより、どーゆーことだよ!」
「あのですね」神は説明を始めた。
「偽名だろうが何だろうが、現地の人に名乗って、認識されちゃいましたよね。というわけで、アーサーを全うしないと、帰せないんです」
「………………………………なにそれ」
聞いてない。まあ、詳しいこと何にも聞かないで来ちゃったオレも悪いけど。いや、聞くヒマあったか?
「まあ、そういうわけで、頑張って救世主やってください。シナリオはないんで、自分のお好みでどうぞ」
「全うするって何? 死ぬってこと?」
「いえ、救世主業務が終わったら帰せます」
「それ、どうやってやるんだよ」
「だから、ご自分で作ってくださいと」
神って殺せんだっけ。いやいや、こいつ居なくなったらそれこそ帰れない。
ず~~~~~~~~~~ん、と落ち込んで、座り込む救世主。いや、アーサー。
悪徳な神に引っ掛かってしまった…………………。こんな時に、膝枕か乳枕でもしてくれる可愛い女の子がいれば………………
どうしよう。今までの展開を整理しよう。そして、これからオレがとるべき行動を考えるんだ。
アーサーは、自分が今まで読んできた小説などを、頭に浮かべた。
そうか。
「そうだ。主人公は始め、不遇だったりするんだ。城から追い出されてからがオレの真価ってことだな! そうかここは、追放ざまあ系かっ!!! それならそれで良し! さーそうと決まれば、もう一度王様に会ってくるぞ! いや、哀れっぽく牢でうなだれてた方がいいか? 何の役にも立たなそうな救世主を追放して、後で必要になって呼び戻してももう遅い! これだな!! 待ってろ王様、待ってろオレのチーレム!!」
ふははははははははははは
浮き浮きと計画を披露する救世主に、神は「いや、ここそんな世界じゃないけどね」と言ったが、救世主には聞こえてなかった。聞こえるようにも喋っていない。わざとか。
「ちなみに、ここ魔法使えんの?」
「使えますよ」
「はっはっは。そうだよな、そう来なくちゃな。後で救世主として、どばーんと派手魔法使って世界を救ってやるためにも、魔法は使えなくちゃな。よし、練習だ。はっ!」
アーサーは、手を前に突き出して、気合いを発した。
しーん。
「はえ? でない? どーなってんの?」
「出ませんねえ」
「こうやったら出るんじゃないの?」
「さて。どんな魔法使いたいか教えてくれないと。まだ出せるようにしてあげてないんだから」
「早く言え。救世主だよ、救世主の魔法ってのがあんだろ、特別な、オレだけにしか使えない、救世主の魔法」
「ありますけどね。使えるようになるかはあなた次第ですよ。はい、設定できました」
「よっしゃ! まずは救世主の魔法で、脱獄だ!」
追放されたいんじゃないの、脱獄なの、と呟いた神の声は、当然聞こえない。
「はっ!」
突き出した手から、なにやら魔法陣のようなものが出て、鉄格子に当たって甲高い音がした。
当然だが、兵士がすっ飛んできて、あっという間に捕縛された。
後で聞いたが、その報告を聞いた王は、それはそれは長い溜息を吐いたという。
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