魔法院へ行こう
リルと救世主の去っていった方向を見たまま、王はケリムに話し掛けた。
「どう思う」
「お見立て通りではあるかと」
王は軽くうなずいて、
「プロではねえ。プロであの反応はねえよ。ただ、『日本』という国は俺の知ってる限りねえし、あんだけ魔法を知らずにあれだけの魔法陣を書いて見せた。牢で誰かと話してたって報告もあるしな」
「御意」
誰もいない部屋。謁見用の部屋なので、何もなくて見晴らしがいい。護衛の兵士は下げているが、部屋の外には待機しているはず。
密談にはぴったりだ。
「泳がせて監視を続ける。あれはどうやら何か仕出かしそうだ。操ってる奴の尻尾も掴みたいしな」
「御意。……しかし」
王の言葉に、ケリムは渋い顔をしていた。
「何だ」
王はケリムの方に、身体ごと向き直った。
「魔法を教えてよかったのでしょうか」
「それな。まあ、言った通りだ。奴のことだ、解ってなくて所構わず変な魔法まき散らさないとも限らねえ。基礎を学ぶと、かえってさっきの魔法も使えなくなるかもしれねえぞ」
「まあ……」
部屋を出ようと動き出す王に、ケリムも動き出す。
「”教授”にお任せになったので?」
「それがいいだろ?」
「そうですね。ところでラステイル様……」
部屋の端まで来たケリムは、壁を指差した。
「この修理費は、どこから計上しましょう」
「………………………………」
先程救世主が開けた(正確に言うと王が開けさせた)壁の穴を指差され、王は頭を抱えた。
一方、足早に進むリルにようやっと追いついた救世主。当然のことだが、どこに向かっているのかは判らない。
「リルさん、これどこに向かってるの?」
「聞いて判るんですか?」
わかりません。この世界に来たのが王城の庭、それから謁見の間らしき部屋?、それから牢、くらいしか行ったことない。
「無駄なことは聞かないでください」
「はーい……」
ややあって、リルはある建物に向かっていることが判った。
城の隣、地上の回廊を進んだ先に、少しねじれた外観で、その建物は塔のように上に伸びていた。ごつごつした岩のような装飾で、4階くらいからは人が通れそうなくらい大きな窓がいくつもあった。
「あそこ?」
返事はなかった。
救世主を無視したまま、リルはその建物の古めかしい木の扉を開けた。
扉をくぐると、中は広く壁には一面にこれまた古めかしい本がぎっしり詰まっていた。やや薄暗めな室内に差し込む光で、部屋にいくつも置かれた鉢植えの植物が光っていた。
「ほえ~……なんかイラストとかで見たような、いかにも『魔法の部屋』って感じ……」
植物の向こう、ローブをまとった老人と、少女がいた。二人を見ると、少女が近寄ってきた。
「リル、それが王の言ってた?」
「はい、お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします。あ、死んでも私は構いませんので」
「やあねえ、王から許可が出るまではダメよぉ」
出たら殺るんかい、とツッコミそうになった救世主であったが。
にっこりと少女が救世主に微笑みかけた。
「ようこそ、魔法院へ」
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