見張り

「リ、リルさん……」

 ふう、とリルは溜息を吐いた。

「怪しいことこの上ないですね。まあ、貴方のことを疑ってないとは言いませんが」

「疑っとんかい」

「今回のこと、目星はついています。貴方がそれに関わっているかだけが問題なんですが……」

 リルは、少しだけ切っ先を下げた。

「とりあえず見張ってろ、との仰せでしたので、部屋に入って頂きます」

「はーい…………」


―― ちぇ、どさくさに紛れて救世主らしいことしようと思ったのに。王様の窮地にカッコよく! なんて、救世主らしくね?

 ケリムだとちょっと見逃してくれそうだが、リルだと無理そうだ。

 救世主にあてがわれた、さして広くない部屋に、リルと二人っきり。

 ベッドに救世主、椅子にリル。

「………………………………」

「……………………」

―― は、話すことがない…………

「オレ、もう寝る」

「はいどうぞ」

 リルは、勝手にしてくださいと言わんばかりであった。

「寝るから出てって」

「見張れと言われた、と言ったはずですが」

―― ベッドのある部屋に二人っきりなんて、女の子とだけにしてぇっつーの。

 リルは、腕と足を組んで、救世主を見ている。出ていく気はなさそうだ。

―― 沈黙がコワイ。わ、話題…………


「リルさんは、王宮で剣抜いて大丈夫なんだ」

「…………」

 思いっきり呆れた顔をされた。

「貴方本当に、度胸がありますね。そんなこと聞く人がいると思いませんでした」

「いやだって、殿中でござる」

「殿中ってなんですか」

「お城の中ってことなんだけど」

「王宮の中にいる、という自覚はあるんですね」


 ふう、とリルは溜息を吐く。さっき会ってから、何度目の溜息か。

「ラステイル様とケリムと私、それと警護の兵士の中でも許可が出ている者。それが王宮の中で剣を抜いていい者です」

「リルさんってのは、王様の執事?」

「執事……まあ、執事ですね。ラステイル様専属の」

「王様専属ってこと?」

「いえ、の、です」

「?」

 リルは薄く笑った。

「貴方は知らなくていいことです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンタッチャブル ランドキーパー 紫風 @sifu_m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ