反逆者

 資料室の外から、資料室長を呼ぶ声が聞こえる。

「ちょっと行ってきます」

「おう」

 あれ、図書室長は帰ったんじゃなかっただろうか。残業申請は聞いてないが。

 しばらく王はひとりで資料をめくっていると。


 ぶつん。と、灯りが消えて、外から資料室の扉が閉められた。

「ほー」

 ご丁寧に、扉に鎖が掛かっている。

「そりゃそうだよな。鍵だけだったら内側から開く」

 念のために揺らしてみると、鎖は結構太そうな重さがあった。

「図書室長か」

 ふわりとあくびをしながら、王は言った。


□▲〇


 王の部屋に向かっていたケリムと救世主だったが、部屋に王はいなかった。

「どちらに行かれたか」

「トイレじゃね?」

 とりあえずと、救世主は王の机に、アンティアナからの手紙を置いた。

「ならいいが……」

 ケリムははっきりしない口調で言う。

「用事は済んだから、オレ、部屋に案内してもらっていい? 疲れちゃった」

「テメエは」

 けろりと、『無関係です』という雰囲気全開の救世主だったが、ラステイル命のケリムの神経を逆なでする。しかし。

 ふう、と溜息を吐くと、兵士を呼んで救世主の部屋を告げ、案内を頼んだ。

「テメエは部屋に行け。オレはラステイル様を探す」

「だから、トイレじゃない? だったらそっとしておこうよ」

 じゃあな、とケリムは兵士と救世主を王の部屋から出し、廊下を歩きだした。


 その時ケリムの耳元に、ほわ、と小さな魔法陣が浮いた。

「……っ! ラステイル様……っ!」

―― なんだろ、あれ。通信みたいなもんかな?

 ケリムは何やら話している。相手は王らしい。

 と、血相を変えてケリムが走り出した。

「なになに、どうしたの?」

「テメエは部屋に行け!」

「はーい」

―― 何があろうとオレには関係ないし。

「兵士さん、オレの部屋連れてって」

「あ、ああ…………」

 兵士は戸惑ったように、ケリムの走り去った方角と救世主を見比べていたが、救世主を連れていくことにしたようだった。



「は~、今日は疲れたぜ~~」

 ベッドにごろんと転がる救世主。

「あ、風呂あんのかな?」

 部屋を探し始めるが、ここはビジネスホテルではないのであった。

「も、いい。寝よ」


―― は~~~~~~~疲れた~~~~。寝て起きたら、今度こそチートでハーレムな異世界に行ってたりしねーかな~。

 救世主は眠りに付こうとする。

 はっっっっ、っと起き上がる。

「あの”神”、『救世主っぽいことしないと帰れねえ』って言ってなかったか? 王様に何かあったっぽいなら、救世主の出番じゃね!!!!?」



□▲〇


「ラステイル様、どちらにおられるか!」

** 資料室な。あ、こっちはいいから、図書室長捕まえてくれ。

「そうは参りません!」

** 俺のことはいいから、そっち早く行けっての。あの件絡みだ。資料はまとめとくから、頼んだぜ。

 くっ……とケリムは唇を噛んで立ち止まったが、方向を変える。



□▲〇


 そ~~っと部屋から出る救世主。

「ケリムさんが行った方向、こっちだったかな?」

 きょろきょろと辺りを見回して、怪しいことこの上ない格好で王宮を徘徊し始める。

―― 誰かに会ったら、聞いてみる? いや、誰が知ってんだ?

「動くな」

 救世主の背後から、細い剣が抜き身で突き出された。

 そ~っと目だけで後ろを見ると。


 リルが刃先を救世主の目の前に持ってきた。

「動くなと言いました」

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