勉強しよう

「えー! 君が『教授』!?」

「そうよ~。まあどう呼んでくれてもいいんだけど」

 アンティアナは、少女らしい笑顔で言った。

「あのじーさんは?」

 部屋のあちこちを移動し、時折部屋の外に出ていくローブの老人。

「彼? 助手のエミルくん」

「『エミルくん』」

「あなたはそう呼ばない方がいいと思うわよ」

「いやそうじゃなくて」

――いくつだ教授。いや、もしやこれは、天才美少女というやつかっ!?


「教授。準備が整いました」

 エミルが近付いてきて、アンティアナに声を掛けた。

「ありがとう」救世主に向き直り「じゃあそろそろ、授業を始めましょうか」


――若くして魔法院のトップに上り詰めた、天才美少女と二人っきりで授業! 『エミルくん』が気になるが、大人しそうなじーさんだし、ちょっとさっきの想定と違うが、それくらいは誤差の範疇! 個・人・授・業!!


 鼻息荒く、アンティアナの手を取ると、救世主は言った。

「よろしく、ティアナ!!!」

「『アンティウス教授』と呼びましょうか」



 □▲〇



「しばらくアレのことは考えなくていいな」

 王は、書類の山を片付けながら、傍らのケリムに言った。

「教授にお任せになるのはいいとして、どこまでさせるおつもりですか」

 ケリムは、王のサインが入った書類を仕分けていく。

「そうだなぁ……」

 王の手が止まった。

「ケリム」

「はい、ラステイル様」

 王は無言で、処理中の書類をケリムに渡す。

「……またですか」

「万が一にもないと思うが、お前の見逃しじゃないよな?」

「もちろんです」

 王に渡す書類は、あらかじめケリムの下処理が入っている。ケリムの目が通ってないものはない。


 そして、ケリムは、ただの従者ではない。

 ラステイルを幼少から支え導いた、師のような兄のような存在で、王に次ぐ存在である。

 代々の宰相は別にいるし、議会もあるにはあるが、ラステイルの代になってから、実質ラステイルとケリムで国を動かしていると言っていい。



 その、ケリムが目を通していない書類が入っている。

 いや、目を通したものと違うものが入っている。


「調査は進めています」

「追い詰めるなよ?」

「心得ております」



□▲〇


 一方その頃。

「これは赤ちゃんに与える絵本なんだけど、読めるようになるのはいつかしらね?」

「くっそ~~!!! その意外とデカイ胸で泣かせてくれぃ!!」

 平和である。

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