魔法ってのはな

「ラステイル様……っ!」

 従者たちが慌てて王と救世主の間に割り込もうとするより早く、救世主の魔法が発動した。

「っ………………!」

 従者たちの動きをよそに、王は素早い動きで救世主の前に立ち、救世主の魔法を止めていた。

「え、王様、動き早っ!! ていうか、王様魔法使えるんだ! 魔法使える世界とは聞いたけど」

 救世主が驚いて腕を逸らそうとすると、「そのまま止めてろ」と王が言った。

「ラステイル様、お下がりをっ!」

「黙ってな」

「ですが……っ!!」

「黙れ、動くな」

 王は従者二人を制すると、救世主の魔法をじっと見た。

「ふぅん……………」

「な、なに?」

 今度は王は、救世主の後ろに立ち、救世主の腕を壁に向けると、救世主の手の前に浮かんでいる魔法陣に指で何かを書いた。


どかん!!!


「ほえ!?」

「「!!!」」

 今度こそ王は救世主から引き剝がされ、従者の後ろに隠された。ちなみにケリムは片手で王を後ろに庇いながら、片手で救世主を殺りそうなリルをつかまえるという、なんとも忙しい事をやっていた。

 王は、ケリムの後ろで、ひとり何かを納得したように笑っていた。

「王様、いまなにやったの?」

「その前に。お前今のやつ、系統は何か答えられるか?」

「系統? 知らん。『救世主の魔法』てやつ」

「『救世主の魔法』ねぇ……………。どうやって出した?」

「どうやってって…、見た通り、はぁって手を突き出したら出るんだけど」

「そうか……………………」

 王はケリムを見た。ケリムは王に頷きはしたが、王を背から出そうとはしなかった。

「ケリム」

 王が声を掛けると、ケリムはややあって、しぶしぶ王を半分背から出した。


「魔法はどうやって使えるようになった? 前からか?」

「いや、ここに来てから……」はっと救世主はそこで言葉を切ると、「ふははは、救世主なら魔法ぐらい使えて当然だろう! 驚いたか、現地人! 崇めよひれ伏せ、チートなオレにハーレムを!!!」

「……………………………………」

 いきなりふんぞり返って何やら自慢げに上からものを言う救世主だったが、当然のことながら、王と従者からは熱い尊敬のまなざしどころか、呆れた気配しか返ってこなかった。

――……しまったっ! ここは、「いやぁ何でもないですよ」なんてクールに振舞い「え? これって何か特別でした?」だったかっ!?  返事返ってこないし、今のうちにやり直すかっ!!

「えーと」

 何食わぬ顔でやり直そうとした救世主であったが、王と従者は全く聞く気がなさそうだった。

「えーとぉ、聞いてもらえます?」

 聞く気はなさそうだった。王と従者は、自分たちの話をしている。

「あのぉ!」

「当面はそれで行く。いいな」王と従者の話は終わったらしい。王はくりんと救世主の方に顔を向けた。やっと。


「じゃあ、行っていいぞ」

「ほえ? じゃあってなんだ! …です?」

「あ、そっか。お前はこれから、魔法の勉強をしてもらう。いいな」

 話は終わったとばかり、退場しようとする王。

「や、ちょ、ちょっと待ってくださいよ、勉強? なんで?」

 王に追いすがる救世主、ケリムが見かねて口を開いた。

「ラステイル様、説明してやった方がよろしいのでは……」

「要るか?」

「要ると思います」

「そうか」


 王は、救世主の前に戻って、正面から救世主を見た。

「あのな、魔法ってのはな」

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