王vs救世主、第1ラウンド(その5)

「さっきも言ったが、奴がいきなり現れて救世主などとほざきやがったのは事実だ。奴にそんな高い魔力があるようにも、スパイや暗殺者だとしてあんなに間抜けで務まるとも思えねえ」

「はい」

「何かある。監視を怠るな」

「御意」


 開け放した通路の先、救世主が行った先から声が聞こえる。

「ねーねー、王様に可愛い妹とかいないの? 健気な猫耳メイドとか………」

 ラステイルとケリムは、顔を見合わせた。

「…………………………たとえあんなに間抜けだとしてもな」


 指示を伝えに立ち去ろうとしたケリムに、ラステイルが声を掛けた。

「なあ」

「はい」ケリムは足を止めた。

「あ、いや」

 ケリムはラステイルに向き直った。

「仰ってください」

「……俺の国は」

 それきり、口ごもってしまう王に、ケリムは微笑んだ。幼少より仕えたケリムだからこその、兄のような慈しみの笑顔で。

「治まっておりますよ。ラステイル様の治世は、代々の問題こそありますが、きちんと治まるべき処に治まっております。民の安寧を第1に考えられるラステイル様だからこそです」

「…………それならいいが」

 では、と、ケリムは行ってしまった。




「俺の国に、救世主はいらねえ。叩き出してやる」

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