第2話 ハダカスキーこと畑和希先輩

「それで、和希かずき君の取材先なんだけど、ね。島外、つまり、外地が中心となっていく予定なの」


 そう続けられた友利編集長に、わたしは驚いた。


 宮古島、池間島、大神島、来間島、下地島、それに、ミカ校のある伊良部から構成される宮古島市には、市民と旅行者などを合わせ、7万人もの人々が暮らしている。人々の日々の暮らしが、島外すなわち外地からの食料等の搬入なくしては成り立たない。

 しかし、この半年の間、宮古島市外の地に足を踏み入れている人々の概ねは、陸自宮古島駐屯地の隊員さんたちだった。今の外地は、身体を鍛え戦闘訓練を重ねた方々でなければ、足を踏み入れることが難しい土地なのである。


 お年は友利先輩と同じく17歳の、畑和希はたかずき先輩。ミカ校に所属している唯一の男子生徒だが、女子校であるミカ校に入学資格があったわけではない。


 ミカ校と宮古島市とがこの異界へと転移してしまった際、横須賀市の高校からの交換派遣生としてミカ校に居合わせた、和希かずき先輩。父君が海自の護衛艦乗りであるというご縁もあってなのか、和希かずき先輩の今の正式の身分は、陸自第五地対艦ミサイル連隊付特別二士である。

 和希かずき先輩は、第五地対艦ミサイル連隊より記録士としてミカ校に、より正確には、ミカ校のミーシャ指導官の下に派遣されている。

 そして、ミーシャ指導官の采配により、和希かずき先輩は『地域密着型広報誌ジミカ』の取材担当に任じられている。ビデオカメラを片手に島内を巡る取材活動に忙しいわけで、和希かずき先輩は、連隊での戦闘訓練を多くこなしているとは思われない。

 そんな和希かずき先輩と、ミカ校最小最年少なわたしとが、不明体アンノウンが出現する外地で、広報誌のための取材活動を行う姿を、わたしは想像できなかった。


 わたしが固まっている様を見て取ったのか、友利先輩は

「外地での取材の件は、後ほどミサイル連隊のお立場で話していただくことになるからいったん忘れて頂戴ね」

とおっしゃった。

 なるほど、第五地対艦ミサイル連隊の外地での活動を取材することならば、可能なのかも。


☆ 


「外地の話をしたのは、実は、和希かずき君は、先月にもミサイル連隊の外地活動に同行していたからなの」

 友利先輩はそこで一息ついた。


 ミカ校の最下級生に過ぎないわたしは、巨大な不明体アンノウンがしばしば出現するといったこと以外は、外地のここをほとんど知らない。わたしは、次の言葉を待った。


 いつもおっとりと話される友利先輩が少し早口で続ける。

「活動先は、宮古島から数十km南下した地点。私達が元いた世界では、滋賀県野洲市から湖南市にあたる地域だそうよ。今の宮古島市は琵琶湖と後に滋賀県となる土地とに囲まれているというわけ」


「はぁ?」

 思わず疑問符が声に出た。確かに、今の宮古島市は、東シナ海ではなく、大きな湖に取り囲まれてしまっていることは知っていた。けれども、湖の対岸は不明体アンノウンが出現する密林である。わたしを含めミカ校生の誰もが外地は謎の異世界だと思っていた。外地が、琵琶湖に滋賀県ですと?!


「ミカ校生にはまだ公開されていない情報だけれども、外地の情報を先に話させていただいたのはね、和希かずき君の現況を話すためには、欠かせないからなの。あの、外地調査に同行した和希かずき君はね。今後の宮古島市のために必要不可欠な異能を湖南の里で獲得して・・・その副作用で・・・」

友利編集長は、そこで言い澱んで、うつむいた。


和希かずき君は、着衣の上から裸が見えてしまう透視の異能をも得てしまったの」

「はぃ?」


 地域広報誌活動の顧問を兼任しているミーシャ指導官が、畑和希はたかずき先輩を、語呂が良いからか、ハダカスキーやカスキーなどと呼んでいるのは知っている。唯一の男子生徒のあだ名だ。ミカ校生は皆知っている。が、そんなあだ名がつけられたからといって、裸を透視する異能なんてものが身につくわけはない・・・。

 けれども、高等科主席にして美少女生徒会長である友利先輩が、後輩を相手にそんな冗談を言うわけはない。


「これ以上は、私の口から言っても信じ難いでしょうから、そんな和希かずき君のアシスタントをほのかちゃんにお願いすることになった経緯については、校長先生に続きをお願いするわね。」


は?と、わたしが目を見張って友利先輩を見つめてしまった時、編集部会議室と職員室とをつなぐ扉がガチャリと開いた。


 姿を見せられたのは、ミカ校校長代理にして、陸上自衛隊宮古島駐屯地司令、兼務、第五地対艦ミサイル連隊長であらせられる、嘉納守一佐ご本人だった。その後ろには、ミカ校レールガン部隊の立ち上げのため米国国防総省より派遣中の、嘉数・コルニーロフ・ミーシャ指導官。


 わたしはバッっと立ち上がり、背を伸ばし、お二人に室内の敬礼をした。友利先輩も私の隣に歩んでこられ、室内の敬礼をした。


 嘉納一佐は軽く答礼されると、わたしの正面に座られた。その右にミーシャ指導官が座られた。ピンと背筋が伸びた嘉納一佐の横で、ミーシャ指導官はご立派なお胸をそびやかされている。

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