第18話 休み時間

 ミカ校全校生徒に配信された、外地の情報。

ずいぶんと沢山の情報を結月ゆづき調査官は話された。


 外地には、少なくとも日輪国という国があって、不明体アンノウンとは交戦状態にあるらしい・・・


・・・気がつくと、1Bのクラスメートたちが遠巻きにわたしを見ていた。

(はい、気になりますよね。髪の毛の色が変わってますし、なんか肌がきらめいてますし)


 それでも、クラスメートたちがわたしに話しかけてこない理由は、明らかだ。

 わたしの席が最後列に移動されており、座るわたしの真後ろに、エムデシリの制服姿の心春こはる鬼姉様が威風堂々と直立不動しているからである。


 先週から授業に参加していない、わたしについてクラスメートのみんなが、どのような情報を伝えられているかは分からない。それでも、たかが一生徒の背にエムデシリの隊員様が控えている状況が普通ではないことは明らかだ。


「あのぅ、わたしはクラスメートとお話してきても良いのでしょうか?」

 おそるおそる心春こはる鬼姉様に尋ねてみる。

「一向に構わない。わたしはただお前の背に立って結月ゆづき調査官殿の外地報告を聞いていただけだからな」


・・・たとえ本当に聞いていただけであっても威圧感ありすぎなのですが・・・



 わたしは席を立ち、てとてととクラスメートたちの方に歩いていった。


 ちらりと振り返り、心春こはる鬼姉様を見ると休めの姿勢となって、威圧を解除してくださっている。


 摘希つむぎがはじめに声をかけた。

穂香ほのか、久しぶりね。みんなに、身体の煌めきの理由とか話せる範囲で話してあげてよ」

 摘希つむぎは、寮で、わたしの室と相互連帯責任ジョイントライアブルな室に属するため、わたしの事情を一番知っている。そう、わたしが話してはいけないのは、別命の中身である。ミカ校であるわたしが島外に出ていることは、機密事項である。

 

「うん、みんな、お久しぶり。わたしね、別命で参加させていただいているジミカの編集室でね。友利先輩から新たな別命をいただいたの。」

 今は、エムデシリに非常事態対策本部が設置される非常時である。ミカ校生にも人道的見地から多くの別命を拝命している。もっとも、最下級生であるわたし達の場合、わたしが地域住民の皆さんのための情報誌の編集見習い、

放送委員の摘希つむぎがエムデシリや駐屯地の活動成果を収めた映像の編集補助といったふうに雑用が別命であることがほとんどだ。

 ん? もしかすると、摘希つむぎは外地の映像を既にいっぱい見てたりするのかな?

「その別命を果たす条件のひとつが、異世界のナノマシンを体内に取り込むここだったの。髪と身体のきらめきは、ナノマシン取り込みが原因らしいの」

 機密指定なのは別命の中身であり、ナノマシンの取り込み自体ではない。もちろん、別命でハダカスキー男爵に夜な夜な衣服を透視される任に服してますなんて、機密指定なくても話さないけれども。


 刹那の沈黙の後、クラスメートたちが話しだした。

「それは・・・思いきった別命だね」

「異世界のっ、て、つまりは日輪国製のナノマシンってこと?」

「ナノマシン取り込みってどんな感じ?」

「今の穂香ほのかは割合と平気そうだけれど・・・」


「うん、今はエムデシリの宿舎で過ごしながら別命に従事していてね。あと、正確には、ナノマシンは、日輪国と協力関係にある異世界からの転生者から受け取ったもので・・・その転生者は元々は20世紀末の現代日本に生きていた人らしいの・・・」

 

 わたしの口から外地のことは話せないので、エムデシリの宿舎にいる設定である(警護中隊長用のテントで夜を過ごしているから嘘ではない)

湖南たんなどの単語も口に出せない。わたしは少し言いよどんだ。

 

「その転生者さんだけどね。見た目、とってもかわいいエルフなんだよ。小学校低学年くらいの身長で。高貴なハイエルフ、かもね」


 摘希つむぎがうまく話をつないでくれた。皆がどよめく。

 そうそう、見た目は愛らしい美幼女エルフのルカサブロウ君なのだ。その線で通そう。転生前は夜の魔王ルカだったなどと話すと流れが怪しくなりそうだ。今にして思うに、寮の部屋で先輩方の衣服を透視したりしてたんじゃないかしら。変態ルカサブロウ君め・・・あの夜以来、わたしは夢の中で朝長ルカサブロウ氏の転生ライフを断片的ながら知り始めている、たぶん。朝長ルカサブロウ氏は一途な人だが、たぶんムッツリスケベ・・・

 

「エルフぅ!」

「ほんとに異世界キターっ感じになっちゃったね」

「もしかすると、穂香ほのかの耳も尖ってきたりして」

「身体の煌めき、ハイエルフの、って言われると納得しちゃいそうだしね」


 話がエルフの方に流れてくれた。


 キンコーン、キンコーン。

 

 休み時間終了の鐘が鳴った。

 

穂香ほのか、グッドラック!」

「クラス1の美肌クイーン誕生だね」

「エルフにクラスチェンジしたら、お仲間紹介してよ」


 短時間の会話で満足してくれたらしいクラスメートたちが、各自の机へと戻っていった。

 

(ルカサブロウ君はダークエルフなんだろうけどね)


 そして、煌めくわたしの身体の中に潜むは、夢魔リリス、すなわち、サキュバスのティアだとは、誰にも言えない。

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