第6話 保健室の異世科医、白井香織さん

ミーシャ指導官はルカサブロウ君の言葉にうなづきながら、

「ともあれ、ルカ君の話では、そのレムというナノマシンたちによって、ハダカスキーの無際限な透視能力は制限できるとのことだ」

とおっしゃる。


「はい、本来、僕は和希かずきさんに大地の土のエレメントのみを見通す力を分け与えるはずでした。ただ、少し力が足らなかった僕が力み過ぎた結果として、無機物全般を透過しうる力となってしまったのです」


「湖南から帰ってきたカスキーがどうにもオドオドしていてな」

ミーシャ指導官は、ニヤリとした。

「何か怪しいと思ったので、カスキーがルカ君と話すところを京香きょうかに盗聴させてな。事の次第が分かったというわけだ」


「あの、和希かずきさんに悪気があったわけではないのです。いまも老若男女問わずに服が透視されているようですし・・・」

ルカサブロウ君が言い淀む・・・不敬にも、わたしは駐屯地司令の嘉納一佐の服が透視される様を想像してしまう。


「それで、ルカ君にその透視力を十分に遮断するためには、ナノマシンのレムが必要になると分かったようだ」

「はい、無機物を透過する力はしばらくの間、潜在的なものにとどまっていたのですが、和希かずきさんがミーシャ指導官に再開された際の能力が顕在化してしまった模様です。その力をレムの空間干渉力によって封じます。」

「ふん、わたしの裸など減るものではないし別に構わんがな」


 どうやら、和希かずき先輩は爆乳属性と思われる。



「よし、話せることは話したし、あとは友利に任せるぞ」

そうおっしゃった、ミーシャ指導官は立ち上がった。最後に、

凪沙野なぎさの、分かっていると思うが、今日見聞きした全ての事柄には守秘義務が課される。分かるな」

と続けられた。

 わたしがコクリと小動物のようにうなずくのを見たミーシャ指導官は部屋を出ていかれた。


 それから、わたし達も会議室を出た。廊下を歩くわたしの身体は今もほの輝いているのだろうか。たとえそうでなくとも、生徒会長を先頭に、後ろに美幼女エルフと巫女姫様を引き連れての行列は人目を引くこと、間違いない。

 友利会長に引率されながら、たどり着いたのは保健室だった。



コンコンっ。

「香織さん、お邪魔するわよね」

友利会長は扉を開けた。


「いらっしゃい、菜生なおさん、皆さん」

黒髪セミロングの落ち着いたセーラー服女子が、わたし達をお出迎えしてくれた。

 友利会長とファーストネームで呼び合う仲であるらしい。



「香織さん、こちらが本日の身体測定対象である凪沙野穂香なぎさのほのかさんね。あと、こちらが、例の異世界の少年エルフさんと巫女姫さん」


 友利会長の仕切りに従い、わたしは、上着を脱いで香織さんに身体測定されることとなった。


 何を測定するのかなと思ううちに、わたしの身体に変化があることがすぐにわかった。わたしの身長はほぼ146cmと変化がないのに対し、体重は43Kgであった。わたしの人生初の40Kg越えだ。鏡の前に立ってみると、体全体が少し光っていはするが、シルエットに変化はない。


 セーラー服姿の香織かおりさんの前の丸椅子の上に、下着姿のわたしは、わたしは座る。くるくると回されながら、背中や脇に聴診器をあてられていく。


 その間、白井香織しらいかおりさんは自己紹介をしてくださった。お歳は友利会長より一つ上。夏休み前に特待生推薦枠で第二女子医大医学科への進学を決めていたとのこと。夏の交換派遣生としてミカ校に来ていたところ、そのまま伊良部島に取り残されたとのこと。


「心音と心雑音を聞かせていただくわね」


 脇の上の方に聴診器が当てられると、こそばゆくてゾクリとした。


「あのね、異世界にきてしまった私はたぶん、医学部に通って医師免許を取ることは多分できないの。でも菜生なおさんと話してね、ミカ校には誰も医師免許を持っていないのだから、せめて、異世界で医療行為ができる異世科医になろうということにしたの」 

そう言って、黒髪正統派美人の香織かおりさんは微笑んだ。


穂香ほのかちゃんは、異世界の洗礼を受けた初めての患者さんだから、これからしばらく診させてくださいね」


「元々の体重と比較して、4Kg近く体重が増えたのですね・・・レムの見立てでは、あと9Kgほど増える予定です。」


わたしは随分とナノマシリッチな女子になりそうである。

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