第7話 エムデシリ三田飾利寮監長

 ルカサブロウ君のナノマシリッチな体重増加勧告をどこか他人事のように聞いててると、謙神ケンシン巫女姫様がフェンシング向けのような細い銀色の棒を手にルカサブロウ君の前に立ち、保健室の扉の方を向いた。

 

「ほう、面白い。君が謙神ケンシンとやらか」


 扉が開いた刹那、エムデシリの制圧警棒を両の手に携えた、三田飾利みたかざり寮監長様のお姿が眼前にあった。


(ヒイィっ)


 ミカ校女子寮の最終門番ゲートキーパーと恐れられるお姿の、身体強化施術を伴う人外の動きに私は凍りついた。


バシシッ。

透明な空間から出現した何かが三田みた寮監長様の制圧警棒を弾いた。


「僕はこれでも夜魔王やまおうルカですからね。ケンビ属を害する存在はお断りさせていただきます」


「なるほど」

と軽く笑い、三田みた寮監長様は、両の手の制圧警棒をしまい込んだ。


(おおっ)

 美幼女ルカサブロウ君がミカ校の最終門番ゲートキーパーを制した。思わず心の中で拍手してしまったわたしは、ケンビ属って何かしら、夜の淫靡いんびな何かかしらと女子中学生らしからぬ妄想をしてしまう・・・いや、油断することなく、三田みた寮監長様を見据え構え続ける謙神ケンシン巫女姫様の清廉な姿に、才色兼備の兼備属かしらと思えてきた。



 のんびりとそんなことを考えていると、夜魔王やまおうが制したはずの空間を静かに生身で突破しつつある鬼の形相の三田みた寮監長様のお姿が目に入る


(無理無理無理っ!)

 わたしは目を見開いた。鬼の形相はわたしを見据えていた。三田みた寮監長様の制圧対象はわたしであったらしい。


(何っ、何っ、もしかしてこの髪の毛の燐光が不純とか何かでしょうかっ?!)


 夜魔王やまおうの空間を制した三田みた寮監長様に、わたしの両肩をがっしりと掴まれた。

凪沙野なぎさのぅ、随分と面白い姿になったな」


 校則違反かもしれない水色ががった髪色のわたしは、全身が凍りつきつつあった。


「ケンビ属を害なす意志を持つ者を完全に妨げる風之盾ヴィイトゥスを無我にて突破なさるとは、さすがですね」

 美幼女エルフのルカサブロウ君が感心した声をだした。


(いえ、寮監長様は私を害なす意志しかお見受けできない気がするんですけれど)

と、固まったわたしに、寮監長様は

「よし、凪沙野なぎさの、寮に帰るぞ。今日は誕生日であろう。迎えに来てやったぞ。ハッピー・バースディ」


今宵で13歳となる私の人生史上、最恐のハッピー・バースディを頂いた。



皆さんに別れを告げ、わたしは寮監長様の後を歩き、ミカ校女子寮へと向かう。

これまでの驚きと恐怖とで、今宵がわたしの13歳の誕生日であることをすっかり忘れてしまっていた。


「ミーシャ殿と話し合ってな。明日から新学期まではわたしが貴様の身体を預かることになった」


 前を歩く三田みた寮監長様がサラリと恐ろしいことを呟いた。


「明日から私と貴様は、湖北の山を越えたところの第五地対艦ミサイル連隊と合流する。何やら、貴様の身体をハダカスキーに馴染ませなけれぱならないらしいからな。猥雑なことを考えたりしたら承知せんぞ」


 ナノマシン装填中のわたし、13歳となったら、和希かずき先輩のアシスタントとして何をしなければならないのでしょうか?猥雑なことを考えずに身体を和希かずき先輩と馴染ませろ、と?!

 

「まぁ、新学期まで一月ほどあるから。合間の時間には、わたしが貴様を鍛えてやろう」


 約一月もの間、寮監長様との強化合宿が確定である。



 ミカ校女子寮門には、ルームメイトの皆さんがわたしを待っていてくれたようだが、わたしの意識は半ば飛んでいた。

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