第5話 スタニスワフ・レムの名にちなみしナノマシン

「はじめに、1つ謝らせてください。

今回の件は、僕がかつての力の多くを失っていたために、和希かずきさんに正しく力を伝えられなかったことが原因です。

そのために無関係な凪沙野なぎさのさんを巻き込んでしまいました」

と、ルカサブロウ君は頭を下げた。

 だからわたしに何に巻き込まれるの、と少し不安は募るものの、美幼女エルフ系のルカサブロウ君に誤られたためか、好奇心の方が先に立つ。



そこからのルカサブロウ君の話は割と長かった。

 元々はソビエト連邦がいったん崩壊した頃に旧共産圏のカスピ海のほとりの国に生まれ‥ブドウ農園が並ぶ村で育ち‥小学校高学年の頃におじいちゃんの朝長の血縁で日本にたどり着いて‥剣道に打ち込み‥IT系の専門学校に進んだ時に京成線沿線のお花茶屋駅そばのアパートで一人暮らしをはじめた。

 

 お花茶屋ってなんかかわいい。ルカサブロウ君のお生まれになったのは、わたしの両親と同じ頃らしい。さておき、見た目ほぼ美幼女エルフなルカサブロウ君のお顔をずっと見つめながら話を聞いていると、(そもそも男女の区別ってなんだろう)という疑問が湧いてくる。

謙神ケンシン巫女姫様のお顔をちらりと見た。続いて、友利先輩のお顔を。最後にミーシャ指導官のお顔とお胸を。


 分かった。

 わたしのブラサイズはギリギリB。謙神ケンシン巫女姫様はおそらくサイズC。友利先輩は余裕でDサイズをクリア。最後にミーシャ指導官は、女子寮でのアクーラ級爆乳守護天使なる尊称に相応しくアルファベットの真ん中くらいの特大サイズ。ルカサブロウ君はノーブラだがあえて言うとAサイズ。男女の区別はブラサイズで大丈夫。この部屋に限っては、だけれども。


 そんなくだらないことをわたしが考えているうちにもルカサブロウ君の話は続いていく。


 二十歳になる年、剣道部の後輩女子コウが行方不明となった‥彼女のことを気にかけるままに就職、金融系のシステム開発を行うエンジニアさんになった後に、太古の異世界に転移。そして、いろいろな出会いの後に、夜魔王やまおうルカとなる‥(ヤマオウって何と思わず聞いてしまった)・・・夜の世界を総べる魔王ということらしい。・・・何?ルカサブロウ君、前世は何気にワイルド系?‥そして、世界の行く末に後輩女子コウと再会できる道をあることを知り、夜魔王やまおうの身体を自ら封じ、眠りから覚めた、と。そして、幾十億年(長っ!)の眠りから醒めた、夜魔王やまおうルカは、自らがいくつもの身体に分離してしまっていることを知る。眼前の美幼女エルフなルカサブロウ君はその一人。超怖いオーガみたいなバージョンの夜魔王やまおうさんでなくてちょっとホッとするわね。




「さて、ここまで話したことで、ようやくに凪沙野なぎさのさんのこれからに関する、話ができます」

と言ったルカサブロウ君は手鏡を生み出し、私に手渡す。

ミーシャ指導官と友利先輩が私を見つめる。


何かを感じ、手鏡を取ったわたしは、顔を手鏡で写す。


わたしの肌が白く蛍光していた。髪の毛の色は巫女様ほどではないけれども、薄く輝いている。


「ただいま、僕の70億年を超える魔王としての生を支えてくれた超知性体のレムが、水素原子サイズの無数のナノマシンとなって、凪沙野なぎさのさんの体内に取り込まれています。特に髪からの取込が多いため、散乱光により、髪の毛が輝いていたりします」


何が起きているのかさっぱりわからないけれども、

何、わたし? なんていうか我ながら神々しい。。。


「ちなみにレムという名は、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの名にちなみでつけられています」

と、ルカサブロウ君。

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