(イントロ②) 罰ゲーム、わたしは先輩の・・・

 ということで、わたしはお見送りされる立場ながら、寮の先輩方に出し物をしなければならない。あくまで罰ゲームとして。

 ただし、わたしの罰ゲームの出し物は、高度なテクノロジーを駆使して行われる。気分転換にそのあたりの経緯を説明しておくね。


 わたし達のミカ校では、文部科学省事業であるST℮M教育カリキュラムにと基づくリケジョ教育が行われていている

 いわゆる、STEM教育、すなわち、"Science, Technology, Engineering and Mathematics"教育のうち、 Engineering(工学)を拡張した(extended)教育手法がST℮M教育である。まぁ、日々の授業でバリバリとプログラムコードを書きまくることになる教育カリキュラムだと思ってね。中1のうちはハローワールドレベルの初歩だけれども、高等科に進まれた先輩方の多くは、既にエース級のプログラミング能力を身に着けたリケジョの鑑となっている。

 

 そんなリケジョの園で、わたしはハローワールドのすぐ後で落ちこぼれてしまった・・・結果、わたしは、別命に当たることになった。

 

 その別命とは、地域貢献のための学校広報誌『ジミカ』の編集見習い兼お茶くみ、であった。

 何しろ、慣れない異世界生活で市民の皆さんは先の不安を抱えておられる(異世界のエルメヌーム帝国の統治下に入る今は阿なおさら)。皆さんに、明るい話題と島内外の現況とを提供する、広報誌『ジミカ』の役割は小さくはない・・・といってもわたしがやっていることは、しょせん見習いなので、先輩方の取材記録の文字起こし支援とかだったんだけどね。

 リケジョ科目はさっぱりだけれど暗記系の文系科目は大得意なわたしにとってこの別命は救いだった・・・砲弾の放物運動を統べるST℮M教育はリケジョの園ミカ校に勘違い入学したわたしのこれまでは、居場所のない気まずい日々だったんだから。AIの原稿起こしの誤植訂正などをやってる方が落ち着くのよ。


 さて、そんなジミカ編集室ライフを地味にエンジョイしていたわたしだったが、ひな祭りの日(つまりはわたしの誕生日)を境に、突然の別命でキラメキ女子になることに。


 別にキラキラ女子系の化粧を目覚めたとかいうんじゃないわよ。


 なんと、わたしは別命でナノマシン入ってますな女子になることになってしまったのです。

 その経緯は後で述べるとして、わたしの中のナノマシン、総重量13㎏のスペックを軽く伝えておくね。


 まず、ナノマシン一つ一つのサイズは水素原子クラス。当然目には見えないサイズだが、その近傍は強めの重力を持つ。その重力が光粒子を散乱する関係で、わたしのお肌は白くきめめくようになっている。ついたあだ名は、プリキラ様。。。

 なぜに、ナノマシンが強い重力を持つのか。それはナノマシンの中身が超高密度の素粒子クオークであるため。宇宙にはクオーク星というブラックホール一歩手前の星があり、ナノマシンは元々はクオーク上の一つの知的生命体だったとのこと。

 わたしは良く理解していないけれども純粋なクオークからなる一つ一つのナノマシンは超高度な計算能力を持つ、とのこと。


 なぜ、こんな宇宙唯一と思われるナノマシンが誕生したのかは、そのうちお話するとして、まずはナノマシンの機能の説明しよう。


 第一は、わたしの思いを取り入れて自律的に発展し組成していく機能。この機能を人道的に活用するため、3月のわたしは、ミカ校唯一の男子である和希かずき先輩と同室で夜を過ごすことになった。あくまで三田寮監長様の厳しい監視下で、だけれど。

 第二は、外部からコマンドを受け取って、目的を果たすための自立分散コンピューティング機能。目的コマンドを受けけると体内の多数ナノマシンたちは、わたしの脳に代わって身体をコントロールする。超高速ナノマシン達が制御する、わたしの身体は神経の伝達速度を遥かに超える俊敏さで動けるようになるらしい。速く動きすぎて、どこかにぶつかったりしたら痛そうだけれども。


 そして、そんなナノマシン・インサイドなわたしのための目的コマンドを、ミカ校ST℮M教育の担い手である楊麗華ヤンレイカ博士を中心とする特命プロジェクトチームが開発中である。未知のアーキテクチャを持つナノマシンの特性解析から始まる特命プロジェクトの面々は、わずか2ヶ月で、わたしの意志に関係なく、わたしに転送されたモーションキャプチャの動きをさせることができるようになっていた。


 ほんとに、わたしの意志に関係なく動くんです。これが、夜中に寝てる間に盆踊りやどじょうすくいをキレッキレの動きで披露したりしているらしい、わたしが言うんですから間違いがない。


 ・・・はい、この一週間ほど、わたしは寮の先輩方の謎モーションおもちゃになってます。巫女姫様が、こんなんでいいのかしら。



さて、わたしのお披露目タイムがやってきたらしい。


 司会進行役の如月優花きさらぎゆうか先輩が

「それでは、戦闘用看護師キラ☆ホノカンの登場です。

お話したとおり、ナノマシン特命プロジェクトチームの取り組みの最新成果のお披露目となります」


 すでにプロジェクトの趣旨を説明された先輩方が、期待した目を送る中、浣腸用の巨大な注射器を手に、わたしは、戦闘用看護師キラ☆ホノカンとしての罰ゲームに望む。


「では、レッツスタート♪」

 楽しそうに優花ゆうか先輩はわたしにリモコンコマンドを送信した。


・・・はい、わたしは、今、プリキラシリーズのダンスを踊ってます。ナノマシンが勝手にコントロールしてくれるから振り付け覚える手間がないところはいいけれども。


 大受けている先輩方の視線が痛いです。


 ナノマシン・ダンスが終わり、いったんわたしは静止した。

ここから、出し物で唯一のわたしのパート、すなわち、罰ゲーム芸をしなければならない。


 (もう、なるようになれ)、と浣腸用注射器を片手に、片膝を後に上げ、思いっきり大きな声で

「このキラ☆ホノカンは、先輩の監聴かんちょう役ですから」

と、わたしは言い切った。


 これを仕掛けた、優花ゆうか先輩を始め、先輩方は大笑いして涙を流していたりもする。


 大受けしてくれたのは、何よりです、はい。



 そう、わたしがナノマシンに自律組成させた権能により、わたしは24時間365日体制で距離に関わらずに、和希かずき先輩の周りの音声を拾うようになっている。こう書く、わたしが和希かずき先輩のストーカーであるかのように思えるかもしれない。

 むしろ逆である。何しろ、命を受けてとは、いえ、半月もの間、和希かずき先輩の方がわたしの身体の方を凝視しつづけたのだから。それは、和希かずき先輩が期せずして身につけてしまった異能を世に受け入れ可能とするための措置だった。


 3月末、わたしは、和希かずき先輩の余計な異能をナノマシンの権能で封じ込めることに成功した。その時に、わたしは、この和希かずき先輩専用の超ハイテク盗聴の権能を獲得してしまったのだ。しかも一度獲得した権能は消えないらしい。


 ということでこの監聴かんちょうの権能も何らの人道目的で活用させていきたい・・・今のところ、和希かずき先輩のいやらしい話がたまに聞こえてしまうとか副作用の方が大きいんですが・・・。


 さて、ポテンシャルはド高めと思われるナノマシン・インサイドなわたしのにわか巫女服ライフはどんなものになっていくのやら?!


 それはさておき、まずは次章から、ひな祭りの日から始まる、わたしの身体を張った、ぶっつけナノマシンライフのこれまでをご笑覧くださいませ。

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