第13話 シャワー室での振り返り

 シャワーっ、と身体の汗を流しながら、

「しかし、今日の寮監長様、少しお優しかったんじゃないの?」 

とわたしは、思った。


 いつも御身体から感じてしまうオーラというか圧迫感というか、そのいつもの気配を、今日の寮監長様からはあまり感じなかった。

 また、言葉遣いも柔らかった気がする。


 数日間でナノマシンのレムちゃんを4㎏以上取り込んだことで、わたしがオーラ耐性を獲得したがためなのかもしれない。


 でも、言葉遣いまで変わったということは・・・もしかして・・・

(寮監長様は、レムちゃんを取り込み終わったわたしが、ほんとに最強少女か何かになったら、エムデシリの隊員に取り立てるおつもりとか・・・?)


 三田飾利みたかざり寮監長様は、エムデシリの保安警護中隊長でもあるのだから、お立場上、隊員の人選に関与できるであろうし・・・


 ふと、バディという語が思い浮かぶ。先月に、摘希つむぎから借りて読んだ近未来警察ボーイズ・ラブの主人公ふたりがバディだったのだ。


 ナイス・バディ(戦闘力的な意味)な心春こはる鬼姉様や結愛ゆあ鬼姉様と、わたしがバディとなる近未来?


(・・・いやいやいや、それはないでしょう。無理無理・・・)



 エムデシリの正式名称は統合行政法人次世代ミサイル防衛線整備研究機構。英語名表記のMissile Defense System Research Institute, Integrated Administrative Agencyの頭文字を取って、エムデシリ又はMデシリと呼ばれる。


 Mデシリは日琉米安全保障条約に基づいて、武器弾薬の所持が認められている保安警護中隊を持つ。

 三田飾利みたかざり寮監長様が中隊長であらせられるMデシリの警護中隊は、隊員数こそ80名と比較的少数だが、間違いなく宮古島市の治安を守る最強部隊である。隊員は、身体強化施術を受けた後に、米国海兵隊の特殊作戦部隊などの訓練にも参加し研鑽を重ね、鍛え上げられているのだ。


 隊の人数比は女性60名に対し男性20名。

 Mデシリの保安警護中隊は、男女同権にして男女同数が基本。けれども、宮古島市に女子校である自衛高等ミサイル科学校があるための隊編成だった。


 中隊が目指すところのひとつに、琉球準州の条例に抵触するような不純異性交友の抑止がある。

 エムデシリの中隊員各位様には、不純異性交友という不祥事につながる全ての行為を物理的に阻止する権限が与えられている。


 それは全ての自衛高等ミサイル科学校生が知るところ。

 知るのはミカ校の入学式の日の夕方。女子寮舎の入寮式においてである。


「ここで、エムデシリ警護隊の実務原則プリンシプルのひとつ、一撃一砕いちげきいっさいを見てもらうとしよう」


 その日の三田寮監長様は、脱柵者確保の勲章をお胸につけた警護中隊長の制服を身にまとい、鬼のオーラを発しながら、わたしたち新入生を見下ろす。


 エムデシリ警護隊の実務原則プリンシプルとは、自衛隊駐屯地や寮舎からの脱柵者などの確保対象が、逃走又は闘争の反抗の意を示したと認められる時に認められる確保に取りうる手段を定めたもの。確保時に行使される実力は、確保対象による反抗的行為を困難ならしめる程度とされる。


 そうした実務原則プリンシプルの文言だけは新入生は前もって知らされていた。


 そしてて実務原則プリンシプルの恐ろしさを知らしめるべく、一撃一砕いちげきいっさいのデモンストレーションが始まる。

 良いを身体をお持ちのエムデシリ警護隊の精鋭の皆様が制圧警棒を振るい、逃げ惑う訓練用マネキンの上腕骨や大腿骨をバキッ、バキッと一撃で一本ずつ粉砕くださるのだ。

 防護服を着た人体程度の強度を持つマネキンさんが、寮舎から抜け出した脱柵者の末路を、わたし達新入生に身をもって示してくれた。いかに再生医療が進化していようと、一撃一砕いちげきいっさいを味わいたいとは誰も思わないわよね。



 エムデシリの隊員となったわたしが、バディと共に、不純異性交遊の現場で制圧警棒をふるう・・・なんて、とても無理・・・素のわたしは、見た目通りの臆病な小心者なのだ。 

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