8「○○童貞卒業しました」
「ところで北上先輩のいきなりのセクハラはなんだったんです?」
「あれはただの変態だ。絶対阻止するから気にするな」
「はあ」
「ミナは頭だけはものすごいのよねー」
なんとなくバフ研の3人の関係が見えてきた。北上先輩はここのトップだけど常識に欠ける、それを2人が補ってるのかな?
先輩、僕はセクハラを受ける権利があるのではないでしょうか?
「早速なんだが要のスキルを見てくれない?」
「なら僕も握力を測っていいですか?それで説明をします」
「いいよ」
「ではやってみます」
僕は制服の上着を脱いだ。
「おっ?いいカラダしてるじゃん」
「わたしもこのくらいの筋肉の付き具合が好きよ」
「……」
「照れちゃってかわいいなー」
野村先輩だけは僕のマグナムのことを知っている。これが羞恥プレイってやつ?僕が変な趣味に目覚めたら責任を取ってください!
しかし北上先輩は僕のスキルを早く見たいようでこのやりとりにイラついた。
「ねぇっ!はやくして!」
「ミナは筋肉には興味ないかー、残念っ」
「はいはい、歩夢君お願いね」
「はい。んっ!……64キロです」
「おっ?結構あるじゃん」
3人の反応はあくまでも一般人の範囲なようだ。
「実は僕、最近背も伸びて筋力もついたんです」
「ならちょっと前は違ったと?」
「4月の記録は39キロでした」
「なるほどそれがスキルの効果か?」
「はい、そうですね」
「でも数日前測った数字は57キロだったんです」
「39,57,64だった?今測った時なにをしたの?」
「さっきの高坂先輩のスキルを参考に手のあたりを強化してました」
「さっき見たのを今試して強化が成功したの!?」
「なるほどそれはウチらにとって興味深い事例だな」
「ミナ、これからなにを試すの?」
「そうだな……高坂がスキルを使わずにこれが再現できるか試すのはどうだ?誰でもでも再現できるようになれば大きな発見になるぞ」
結局僕が『チカラ』を見ながら高坂先輩が矢印を自分で操作することを試みたが失敗した。同じく魔法を使える野村先輩も同様の検証を行ったがそれも失敗した。
「なるほど『チカラ』を操作できるのは適正があるからか、そこまでがスキルなのかもしれないな」
「……あくまで可能性としてだけどな」
一方、僕は高坂先輩と野村先輩にそれぞれコツを教わったおかげか握力の記録は88キロまで伸びた。
「魔法を使った後の倦怠感はないけど気力を使ったせいか疲れたわ……」
「今日はここまでにしておくか」
研究というものは地味なものらしい、検証すべきことに対しては再現性を確保するために何百回も同じことを繰り返さないといけないし、細かな条件も調べないといけない。
でも女の子3人に囲まれてそのうち2人はエロいし、なにか起きることを期待しちゃうなぁ。
「要歩夢の能力について……他者の再現性は……」
僕が帰るとき北上先輩はひとりつぶやきながらパソコンに向かっていた。今日の出来事をレポートにしているらしい、このような姿を見ると彼女がバフ研を支えていることがよくわかる。
* * * *
「次試してみたいことを考えてきたぞ」
「それはなんです?」
「ダンジョンにいくぞ」
「は?」
「そうよ、要くんは普通科で授業でダンジョンに入ったことがないのよ?」
「大丈夫!先生が引率してくれることになってるから」
いきなり引き戸がガラッと開き、ゴリッゴリの戦士系の先生が入ってきた。
「オレなら例え赤子連れでも問題なく最下層まで行けるぞ!なんたって先生はD級ハンターだからなっ!」
「あっ、はい」
先生、僕が今あなたに求めていることはすぐにでもこの部屋から出ることです。女の子たちのいい匂いだったバフ研の部屋は現在進行形でおっさんの臭い匂いに侵されている。
「E級の裏山のダンジョンに行くのか?」
「近いですし、うちの学校のFとEなんてほとんど一緒ですからね」
「確かにそうだな」
「うぇーあのダンジョン嫌いなんだよな」
「ホント、大きい虫なんてもう見たくないわ」
「……」
怖いんですけど。初めてのダンジョンがいきなりってどういうこと?先生も協力してるし、入るのさえ嫌なんて言えない雰囲気なんだけど!?
しかしなぜか高坂先輩と野村先輩もダンジョンに入るのが嫌そうだ。
「今、大きい虫って言いましたよね?どういうモンスターが出るんです?」
「あん?クモとかイモムシだよ」
「せっかくあの最悪のダンジョンを卒業したのになんで……」
「虫のモンスターなんて気持ち悪がって人気がないからな、おかげでうちらでも予約なしで入ることができる」
「「……」」
高坂先輩と野村先輩の目つきが怖い。そんな目を向けられている北上先輩はきっと空気が読めないのだろう、僕に起こる変化だけに興味があるようだ。
「ここが入口だ」
「どう?初めてのダンジョンは」
「本当に空間が歪んでるんですね……」
話には聞いていたが作り物のような空間の歪み、そこにあるのが不自然な虹色のゲートは本能的に避けるべきものだと感じた。
「大丈夫だ。先生がついてるぞ」
がっしりとした装備を纏った先生は確かに頼りになりそうだ。でも先生、ワキガ臭いです。早く北上先輩を納得させる成果を持ち帰って先生にはお帰り願いたいです。
「心の準備はできました。では行きましょう」
僕たちはゲートをくぐる。虹色のゲートは特になんの感触もなくそれがかえって不気味だった。ゲートをくぐるとき僕は目を閉じてしまった。
「おめでとう、初ダンジョンね」
「え、はい」
目を開けるとそこには背の高い木々が生い茂る森だった。
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