2「ハチミツのように甘い誘惑とビターな現実」

「……んーんっ……ん……」


「…………んっ!……んんっ!…………ぅん……」


 要歩夢は夢精をしている間のことを覚えていない。ただなんとなく快楽の大波に飲まれて絶頂に至ることだけは覚えている。その夢の相手は妄想の人物であることも多いのだが高校に入ってからというもの実際に会った人物ばかりになった。

 彼は今朝も絶頂に至ろうとしている。


「んあっ!?……あ……ああっ、、、んっ!!!」


 その時彼にとって思いもしないことが起こった。


「痛っ!!!?」


 僕は突然のことに驚き、混乱状態のまま目が覚める。体の気だるさを忘れるような衝撃、それが当たった顎のあたりを手で触る。


「うわっ!?……あぁぁぁ~」


 『手についたモノ』の感触は毎日触っているもの、なんとなくなにが起きたのか僕は察した。


「最悪……」


 先程起こったことは僕の下半身の砲身から顔に放たれたようだ。僕の気分は朝からどん底だった。セルフ顔射なんて。


「……片付けもしないといけないんだけど、問題は……」


 僕はマグナムがライフルに進化していたことを確認した。それと砲撃の威力だ。風呂場で威力の検証をしたところ壁にノックをしたような重い衝撃が響いた。

 僕は進化したそれを対物ライフルと名付けた。これ以上進化を続けると冗談抜きに殺人兵器になってしまうのではないかという危惧もある。僕は『チカラ』の制御の必要性を感じた。



     *     *     *     *



「ダンジョンに入ったの!!?」


「「「!!!?」」」


「さすが要君、すごい人だと思ってたけどそこまで……」


 僕が昨日のことを言うとクラス中がざわめいた。


「……ゲートは見たことある?」


 別に小さな声で話したわけではないけど、教室はまだ騒がしく聞こえづらそうだ。


「静かにして!!聞こえない!!」


 誰かがそう言った。ざわめきはすぐに収まり、全員が僕の話を聞こうとする。僕は周りを見渡すと同じ言葉を繰り返す。


「ゲートは見たことある?」


「ダンジョンの入り口ね、見たことだけなら」


「僕は始めてだった。話には何度も聞いてたけど、近くに立つとゲートは本当に不自然ですごい不気味だった」


 教室は怪談話でも聞いているかのように静まり返り、誰かの汗の流れる音さえ聞こえそうなくらいだ。


「先生や先輩が先行してくれたんだけどゲートに触れた感覚は今でも覚えているよ。まるで底なし沼に身体を自分で鎮めるような気分の重い感触だった」


「……ダンジョンの中はどうだった?」


「僕が行った裏山のダンジョンは森だった。ダンジョンの中でも太陽があってまるで外のようだった。でも明るくてもモンスターが突然襲ってくると思うとずっと背筋が冷えてた」


「ははっ、やっぱ図体がデカくなってもビビりなんだな!!」


 突然杉本が僕を煽ってきた。


「ビビりで構わない」


 僕はその言葉に応えることにした。


「なに開き直ってるんだ?だっせ!」


 周りもざわざわとしている。きっと失望もあるのだろう。


「昨日のダンジョンは昆虫のモンスターだった。ただし背の高さが30センチ、全長は70センチにもなる」


「なっ!?」


「そんなの現れたら、あたし絶対怖くて動けないわ」


「未知の存在に警戒しすぎてしすぎることはない。先生も言っていたよね?僕が入ったのはE級ダンジョンだった。それでも不意打ちを食らったらただで済まないモンスターが出てくる」


「そうだな。歩夢のいう通り、危険を回避できるならビビるくらいでちょうどいいかもな?」


 杉本は旗色が悪くなったのかバツが悪そうに出て行く。


「で、モンスターはどうだった?」


「一応1匹だけ倒したよ」


「おおっ!?すげー」


 再び教室はざわめいた。ちょうどそのとき先生が入ってきたが、続きを言うように手振りで促された。


「ナックルで殴ったら吹っ飛んで木にぶつかって倒せたよ。続きが聞きたい人は放課中にね。授業も始まるから」


「はいはーい。先生怒ると怖いから歩夢君への質問はあとのお楽しみねー」


 秋田さんが仕切ってくれたおかげで、さっきの騒がしさが嘘のように収まり授業が開始された。



     *     *     *     *



「早速なんだけど、昨日の測定の続きなんだけどいい?」


「はい」


 あのあと、僕たちはダンジョンから戻り、いろいろな測定をすることになった。だけど結局時間が足りず、続きは今日行うことになった。


「ふうー、おわったー」


「うーん。肩が凝るわねー」


「お前の場合、おっぱいがデカいからじゃね?」


「もぅ、男の子がいるんだよ?」


「……(おっぱい!)」


 そう言いながら野村先輩は見せつけるように胸を隠し、僕に視線を送る。

 彼女は僕の反応がおもしろいのか舌を出し、唇をほんの少し舐める。恥ずかしさと欲情でゾクゾクする。悪い女性だ、童貞を弄んでやがる。

 野村先輩に気を取られているともう1人のエロい先輩が不意を突いてきた。


「絶対に大きくなっているよね?」


「なっ、なにがでしょうか!?」


 北上先輩が頭を下げ、僕の対物ライフルをロックオンしようと顔を近づける。頭が追い付かずびっくりしている僕は思わず部屋の角に追い詰められるように後ずさる。

 しかし彼女は止まらない。改めて言うが北上先輩は美少女だ、彼女にはある種の圧があった。


「ストーップ!」


 高坂先輩が北上先輩を羽交い絞めにする。止められても北上先輩の目はまっすぐに僕の対物ライフルを見つめている。


「むぅっ!離せっ!高坂は穢れを知らない乙女だから恥ずかしいかもしれないが、ち〇ち〇はいいものだ!」


「なっ、なんてこというんだ!?」


「野村も言ってやれ。それに要を悦ばせることができればこれからも研究に協力してくれるかもしれん」


「ミナはち〇ち〇と研究どっちが大事なの?」


「ち〇ち〇は大好きだ。それと研究は大事だ。両方選べるならそうすることが最高じゃないか。野村はオトコに興味がないわけではないだろ?」


「……そうね。確かにあたしも人並みにそういうことに興味はあるわね」


 ち〇ち〇が女の子の口から飛び交うなんて興奮しすぎてドクドク汁が溢れちゃってるよ。それに悦ばせてくれるって本当にそんなことしてくれるの?


「ああ、もうダメだぁー。おしまいだー」


「……ミナ」


 野村先輩の口が開く、この場の決定権は明らかに彼女が握っていた。


「めっ!」


 野村先輩が北上先輩のおでこを叩き、乾いた音が部屋の中に響いた。


「野村!?」


「前にトラブルが起きたことを忘れたの?あのときは先生がなんとか収めてくれたけど次はないって言われたわよね?」


「でも……」


「でももなにもありません!」


 再びおでこを叩く軽快な音が響く。そのあと北上先輩がなにを言っても野村先輩がシャットアウトしていた。


「今日はミナが使い物にならないわね。歩夢君、今日はお疲れ様ね」


「は、はい」


 残念だなー。そう思っていると野村先輩は僕と一緒になぜか廊下に出た。


「!!!!!?」


 野村先輩が後ろから抱きついたのか!?突然のおっぱいの感触に僕の脳みそが大混乱。だが混乱したのは一瞬で、脳みそは全力でおっぱいの感触を味わうことに集中した。


「このくらいだったら、お礼してあげるよ?」


 自分でするのとは全然違う……。女性の手が初めて僕の対物ライフルとその弾倉に触れた。野村先輩の手はまるで女神のような慈しみに溢れていた。


「ぁぁ…………ぁっ……」


「かわいっ。……本当に欲しくなっちゃうかも」


 野村先輩が僕を離す。僕は彼女のことがたまらなく欲しくなった。だけど童貞なせいだろうか、理性というブレーキがかかり彼女はその間に部屋の中に戻ってしまう。


「川原先生が明日からダンジョン探索に行けって、しばらくあたし達とはお別れだね」


 次の日、野村先輩からそんな一言を言われ甘い誘惑の日々に終止符が打たれた。

 僕は野村先輩に捨てられたのだろうか、名残惜しそうに閉まったバフ研の引き戸を見つめた。

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