無双状態なんですけどなんか違くない?
1「えっ?僕、なんかやっちゃいました?」
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
「大丈夫?」
始めてのダンジョンはとても息苦しかった。だけどそれは生命の危険を感じているからではない。
もしかしたらと『チカラ』を見てみると黄色の矢印が僕に集まってるのが目で見えた。問題はそれがアレに集まっていることだ。
「……くっ!」
「無理そうならすぐ言えよ?ここで中止してもいいんだからな」
「……大丈夫です。ただ少し慣れる時間をください」
ギンギンに張ってやがる!今はうずくまって体調が悪いフリで誤魔化せているけど立ったら絶対にバレる。勃っていることが!
進むも地獄、退くも地獄なら賭けに出るしかない。
要はチカラが有り余ってるから暴走するんだ。なら無駄に使ってやればいい。
僕は身体に巡る赤と青の矢印を速く、大きくイメージした。
「これは!?」
「なるほどな」
「カナ、どうしたの?」
「歩夢からすごい力の圧力を感じる。もしかして覚醒したのか!?」
「要、なにがあった?」
「先生、僕(勃起で)苦しくって、もしかしたらエネルギーが溜まりすぎてるのかと思って試してみたんです」
「そういうことは先生がいるんだから相談すべきだろ?」
「……すいません、余裕なくて。でももう(勃起は)大丈夫です」
僕は立ち上がり健在っぷりをアピールした。
「いや、もう少し休め。焦らなくても時間が経ってから探索を続行するか決めればいいからな」
「はい」
しばらく深呼吸したり、周りを見渡し、改めてこの環境に慣れようとした。こうして見ると本当に本物の森の中のようだな。
アレに集まる黄色の矢印ももう吸収されなくなったし、気持ちも落ち着いている。
「先生、僕は大丈夫です。先に進みましょう」
「わかった。すぐにモンスターは出るはずだから心の準備だけしとけ。よし進むぞ」
「「「はい」」」
木々の間を僕たちは歩く。モンスターの存在をあらかじめ分かっているとはいえ、いつ現れるか分からない未知の存在は恐ろしい。しかし先生はもちろん先輩達もそんな僕の気持ちに構わず慣れた足取りで進んでいく。
「近くに2匹、こっちに気づいていますね」
「ああ、この人数で同時に相手にしてもいいがここは俺が仕留めるか。お前たちはここで待っておけ」
「はい」
「えっ?」
モンスターなんて全然見えないんですが?先生はショートソードを抜き、すたすたと進んでいく。
しばらくすると薄暗い陰になっているところで先生がなにかを斬っていた。あっ、虫のモンスターってこんな金属音に近い声で鳴くんだ。実際にほとんど見えていないと感想なんてそんなものだった。
「よし、お前たち来ていいぞー」
「歩夢くん、いこうか」
「はい」
近づくと段々とモンスターの死骸がはっきりと見えるようになった。その瞬間、黄色の矢印が僕に向かって飛んでくるのがわかった。
「!」
……大丈夫、さっきと比べれば大したものじゃない。僕は少し驚いたが先輩たちにはモンスターの死骸に驚いているように見えるだろう。
それにしてもさっきまでモンスターの中にあった黄色の矢印が僕に集まったからかもうこの死骸の中にはほとんど矢印が残っていない。すぐに赤の矢印が消え、同時に死骸も消滅した。矢印は生命のチカラでもあるようだ。
「どうだ?初めて見るモンスターは?」
「あれフンコロガシですよね?」
「もう消えた?」
先輩たちは気持ち悪そうな顔でできるだけ死骸を見ないようにしていたようだ。
「そうだな。このダンジョンのモンスターは地球に存在する虫だ。大きさは膝下くらいあるバケモンだがな」
「あの、もしかしてウジャウジャと集団で襲ってきません?」
「そんな恐ろしいことあるわけないでしょ!?」
「ということだ。ただダンジョンのランクによってはそのようなやっかいな行動パターンも確認されているな。だからダンジョンにはランクが付けられている」
ここのモンスター自体はそこまで恐ろしくなさそうと思う自分がいた。
「どうだ?戦ってみるか?」
そんな僕の心境を見抜いたのか先生から提案があった。
「やってみてもいいですか?」
「おう、俺たちがサポートする」
「あのー、改めてここのモンスターを見たらこれ以上見たくないなって……」
「……高坂、後輩は大事にしろよ?」
僕が感じた通りモンスター自体は危険度が低いので先生と2人で戦うことになった。
「よしっ!お前が腕に付けてるのはナックルだ。落ち着いて戦えば危険はない。だから殴るときはよく狙えよ?」
「はい!」
ダンジョン用の武器は学校のものだ。先生と相談した結果、小手のように肘近くまで覆われているナックルを選んだ。授業は武器を使った訓練はしてないからね。
先生の誘導でモンスターに近づく、今度は『チカラ』を見たから居場所はすぐにわかった。アリのモンスターだ、そっとそれに近づいた。
「よしっ、今だ!一気に距離を詰めろ!」
距離を詰めた僕は一気に足を踏み出し、アリの背後から右のこぶしを突き出した。目の前のアリのお尻の部分に拳が触れる。しかし思ったよりも重さはない。殴ったお尻は大きく振れ、そのまま付け根のつなぎ目が千切れ吹っ飛んでいった。
「えっ?」
さっきのフンコロガシも硬くて重そうな感じだったよね?いくらアリでもそんな簡単に千切れて吹っ飛ぶものじゃないよね!?
「は?」
「先生……やっぱ僕おかしいですよね?」
「「えっ?」」
「おい、虫のモンスターはかなり硬いはずだぞ!?そんな風に吹っ飛ばすのはC級ハンターレベルとしか……」
「「C級ハンター!!?」」
えっ?僕、なんかやっちゃいました?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます