3「なんでやねん!関西人がログインしました」

「みんなも一緒にダンジョン後のトレーニングはどうだ?プロテインもあるぞ」


「そんなメニューこなせるの先輩くらいですって」


「いやいや、戦闘ばっかりだとバランスよく筋肉が育てられんだろ」


 相変わらず木全先輩は脳筋先輩だ。今日もドスドスとトレーニングルーム去っていった。

 つい1か月前まで僕に彼女ができるかもと思っていたけど今はもうそんな気配はみじんもない。僕は筋肉ランドに放り込まれて身も心も削られている。


「それにしても歩夢はすっかりうちのエースだよな」


「だよな。索敵は神がかってるし、モンスターを速攻でワンパンするしな」


「いえ、それは先輩たちのご指導のたまものです」


 ここはダンジョン探索部のチーム1つ、トップクラスのチームだ。

 チームは男女で別れることが多く、うちのチームの評判はすこぶる悪い。なぜなら雰囲気が怖いから。

 

 モンスターと戦えばケガは絶えないし、歴戦のハンター特有の雰囲気は人を威圧する。僕も初めてここに来たとき先輩たちにかなりビビッてしまった。

 でも見た目で誤解されるけど基本みんないい人たちだ。ただ特殊な環境だからだろうか、変わった人は多い。


「歩夢はもうこの学校に収まる器じゃないよなー」


「えっ?」


「そうだな。そのうちスカウトが来るんじゃね?」


「は?スカウト?」


 まずい。まずいことになった。この1か月死なないように、足を引っ張らないように必死にがんばってきたつもりだったがやりすぎたらしい。

 あの僕、命かけるつもりなんて全くないんですけど!?いい加減ここから逃げよう。


「川原先生!!」


「おお、キミの活躍は聞いているよ」


「先生、すいません!僕死にたくないんで凄いところにスカウトされても困ります!」


「……マジで?」


「マジです!」


「こっちもちょっと考えてみるから、今日はここまでにしておこうか?」


「あの、もしスカウトの話が来たら断るということじゃいけないんでしょうか?」


「あーちょっといろいろ大人の事情があってね、しばらく探索の方はいいからフィールドワーク部の方に顔を出すといいよ」


「…………」


 先生、最後すごい早口でこれ以上しゃべるなって目で見てきたな。まあいいや、いざとなったら僕には断る権利はあるんだ。

 僕にはやはり楽しい高校生活が必要だな。



    *    *    *    *



「おーかーえーりー」


「カリナぁたーだーいーまー」


「いえ~い」


 久しぶりのカリナとの対面に僕は思わず両手を前に出した。テンションが上がりすぎて女子にハイタッチを要求するなんて暴挙に及んだが、カリナな分そのハードルは低かった。


「(硬っ)」


「おーおー歩夢。歴戦の戦士のオーラって奴があふれてるんじゃなーい?」


「そうか?クラスでは朝から疲れてるだけの印象だったぞ?」


「えーっ!?うちらのクラスでは連日、歩夢があのAチームで活躍してるって噂で持ち切りだったよ!」


「Aチームってなんだ?あ?そういえばシンイチの奴がそんなこと言ってたような……」


「ダンジョン探索部のトップチームがAチームって言われてるんだよ!ハンター科はそこで活躍するのが憧れなの!」


「……」


 そんなにいいところじゃないよ?

 脳筋先輩を始め、変態の巣窟だし。興奮するとダンジョン内なのに上半身裸になる人もいて内情を知ればきっと失望するだろう。


「どうした歩夢?」


「なんでもないよ」


「ところでなんでこっちに戻ってきたの?」


「僕は別にダンジョン探索が好きなわけじゃないからね。いろいろあって先生がこっちに戻れってさ」


「そうなんだー」


「まぁ、細かいことは気にせず楽しくやろーぜ」


 こっちに戻ってきて、僕の体力がバカみたいに上がったのかかなり余裕があった。慎吾やカリナも同じく余裕があるようなんだけど周りの新入生も同じく鍛えられているようだった。


 それにしても女子と一緒に楽しく野外で部活。僕のライフルは久しぶりに伸び伸びとしてる。



    *    *    *    *



 なんでやねん!!


「あっつー」


「これからもっと暑くなるなんてサイアクだよねー」


「うわぁ~いわないでよぉ。もっと暑くなるじゃーん」


 こちとらバキバキのバッキバキやぞ!朝から透けブラとか辛抱たまらんわ!


 要歩夢は強すぎる性欲で壊れた。今彼の頭にはエセ関西弁の心の声が響いていた。


「おーすっ、あゆむっ!」


 秋田ちゃん、今日も美人さんやな!


「おはよ」


 歩夢は表面上は自然な笑みで返事を返す。それに対して歩夢のライフルは忙しそうにピクンピクンと動いている。なお下半身は涙ぐましい努力で決して膨らみがバレないようにしてある。


「あゆむくん、やっほー」


「田崎さん、おはよ」


 彼はすっかりクラスに馴染んでいた。知名度という意味で断トツに高い彼だが、それを一切感じさせない人あたりの良さが更に人気を高めていた。


「うーす」


「慎吾、おはよ」


 すっかり教室は癒しの場所やで。


「それにしてもやっぱ歩夢はすげーよな、ダンジョン探索で同じ班だと安心するぜ」


「油断してると危ないよ」


「ははっ、気ぃつけるわ」


「羨ましいなぁ、僕も要君と一緒にダンジョンに潜りたいよ」


「悪いな、シンイチ。うちらは4人決まってるからさ」


「うっ。ならせめていろいろ教えて欲しいなぁ」


「それなら大丈夫だよ」


 このクラスでもダンジョン探索が始まっていた。最初の何回かは先生が付くがもう彼らはチームで探索をするようになった。


 なんでもやっていいんだよ(もちろん性的な意味で)、とか言われてぇ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る