6「呪縛」

「一度だけでいいんだ。顔を見せるだけでいい!」


「わかりました!わかりましたから!」


「すまん、ありがとう」


 大の大人が頭を下げるのは正直面くらった。僕は所詮高校1年のガキなのだ。ろくな説明も受けずに返事をしてしまった。



    *    *    *    *



「今日はうちのクラン『竜の足跡』に見学に来てくれてありがとねー」


「よろしくお願いします、要です」


 フレンドリーに迎えてくれたのはサブリーダーの石狩さんだ。石狩さんは40歳前後の女性でフレンドリーな雰囲気の人だ。流石に僕も彼女には欲情しない。

 クランというのは所属チームみたいなものだ。ハンターというものは死亡事故やケガで欠員が出ることが多いため、交代要員が必要だ。クランの中から4~6人のパーティを組んでダンジョンを攻略する。C級以上のダンジョンになればクランから同時に何組かのパーティでダンジョンにはいることも多い。


「じゃあ早速訓練の見学をしてもらおっか?」


「はい」


 僕はこの見学に乗り気じゃなかった。さらに間が悪いことに石狩さんはプロらしい戦術的な目線で僕にアピールしてきた。彼女は攻撃魔法の使い手だ、クラン全体の基本戦術を指導する立場にあるらしい。正直小難しいことは頭に入らない。


「なるほど。やはりプロは違いますね」


 平凡な感想しか出ない。


「まぁ、なかなかやってみると難しいよ?」


 そんな僕の心を読まれたのか。石狩さんは話を切り上げた。


「ところで歩夢くんの実力をこの目で見たいんだけどいいかな?」


「はい、大丈夫です」


 少し手を抜けばこの話は断れるだろう。車には僕と石狩さんと他2人が乗って僕たちはダンジョンにやってきた。


「では許可証をお願いします」


「はい。これでお願いね」


「……確認しました。通っていいですよ」


 学校が管理するダンジョン以外に入るのは初めてだ。僕の装備は学校から借りたものだけどいつもよりもいいもののようだ。しかも少し使い込まれた装備なようで動きやすかった。

 ダンジョンに入るとクランの3人はそこが街中のようにスタスタと進んでいく。


「あの、みなさん普通に進んでますけどいいんでしょうか?」


「ああ、俺たちはここには何度も入ってるからな」


「もうそろそろ要君を先頭に進もう」


 僕はいつものように索敵しながら進んだ。ダンジョンの中は背の高い草が生えた草原だ。道はないが3メートルほどの背の高い草は一部で10~50センチの高さの草を踏み分けながら僕たちは進む。


「!……30メートルほど先になにかいます」


「ほう、この距離で気づくとはやるな」


「それで要君、どうする?」


「いつも周りに他のモンスターがいないときは僕が奇襲するんですけど、どうします?」


「任せるよ。ただ危なそうなら逃げてくるんだぞ」


「はい」


 僕はいつものように獲物に近づく。いつもはこれでケリがつくし、何体かモンスターがいても石を投げたりして気を逸らして倒すこともある。


「!!?」


 リ、リザードマン!?ここダンジョンC級じゃん!だからゲートを囲むように柵があって銃を持った見張りの人がいたのか。聞いてないよ!


「こんなの騙し討ちじゃん」


 モンスターを騙し討ちしようとしている僕がそんなことをつぶやいている。資格がないはずの僕がC級ダンジョンに入るには事前に川原先生が手を回さないと無理だ。なんかムカついてきたんだけど。


「ごめん、憂さ晴らしさせてもらうわ」


 思いっきりリザードマンを殴りつけたら、いつものように穴が空いた。その音が離れたところにいた石狩さんたちのところまで聞こえたようだ。


「ちょっと!すごい音したけど要君無事!?」


「うわぁ……リザードマンが爆発したみたいになっとる……」


 C級でも同じじゃん。ワンパンでケリがついてしまう。


「いつもこんな感じです」


「う~ん、うちで扱える人材じゃないかもね。」


 じゃあ今回は縁がなかったことで、とはならないところが社会の厳しいところである。

 もっと偉い人が出てくるよね~。



    *    *    *    *



「ハンター管理局で課長をしています墨家です」


「牙城高校1年の要です」


 どうやら石狩さんはスカウトを兼ねてクランに限らず人材育成にも力を入れている人らしい。ダンジョンのあとすぐにハンター管理局支部に連れてこられた。


「君は特別な才能を持っているようだね。測定の結果によっては特別な待遇をさせてもらうよ」


「あの特別な待遇とは?」


「ああ、大丈夫。十分な保証がされるからね」


「そういうことじゃなく……。あのもし断ったら?」


「……」


 目の前のおじさん、ニコニコしながら目が笑わないで見つめてきて怖いんですが。


「あはは……まず測定しましょうか。平凡な結果かもしれないですし」


 はい、最高レベルでした!

 だって手を抜こうとするとおじさんが、もう一回、もう一回って淡々と言ってそれがすごく怖いんだもん。


「おめでとうございます。要くんは国から特別な保護を受ける立場になりました」


「……はい」


 全く乗り気じゃない。高校は今までどおり通えることになったけど、給料や保障と引き換えに週に4回の訓練や緊急召集に応じる義務がある。


「あのすいません、あの人たちは?」


「あなたの先輩に当たるハンターたちですよ」


 この管理局支部は1つのビルの中にあった。現代的な建物の中でモンスターを狩る装備のハンターたちが歩くことは違和感を感じた。ここに来るハンターはクランのトップや管理局所属の僕のようなハンター、つまり一流のハンターだ。


「!!!?」


 なんとなくその存在に気づいた。そして一度見たら目が離せないほどに目を奪われた。


「尻が輝いて見える……」


 美人というほどではないし、プロポーションが特別いいわけでもない。だけど尻だけは輝いて見えるほどに目を奪われる。おじさんの話なんてどうでもいいかのように目が釘付けになってしまった。流石にあちらも僕の視線に気が付いたのか変な顔をしていた。それでも尻から目が離せなかった。最後は涙を流しながら彼女の尻を見送った。


「キミ、キモいですね~」


 おっさんがなにか言っているがそんなことは知らん。僕は下半身の欲望には逆らえないんだ。

 この日の夜はやはりあの極上の尻が夢に出た。


「スキルレベルが上がりました、おめでとうございます。レベル5のスキル、一点集中。目標を達成するまで夢精以外で射精ができなくなりました。精子を溜めるほどパワーが上がります」


「は?」


「目標を設定しました。それはあなたが惚れた女性と性行為に及ぶことです」


「はぁあああああああああああああ!?」

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