6「もう一押し」

「お前はなにを目標にこの先生きていくんだ?」


 マツさんの低い声だけが静かなダンジョンに響いている。僕を含めた仲間全員がその迫力に息を飲み込む。


「僕は……っ。僕は恋をしようと思います。まだ彼女はひと目しか見ていませんが想いはどんどん高まっているんです」


 マツさんを含む全員がぽか~んと呆れた顔をしている。


「恋ぃ~?ずいぶんと乙女なこと言いやがるなぁ?」


「お前みたいなち〇こでできているような野郎はそのまま飛びつくんじゃねーのか?」


「「わはっ!あははははははっ!」」


 僕はそんなことじゃ怒りはしない、見せつけるように涼しい顔をして見せた。


「もしお前のそれが本気だとして、その女を本当に一生守りたいと思えるのか?」


「そんな保証なんてありませんよ」


「「……なに言ってるんだ?」」


「だって恋ですもん。先が分からないからおもしろい、期待する、相手を大切に思うんじゃないですか?」


「はははっ、確かにそうだ」


「笑っちまった。だけど青臭い言葉だがアユムはまだ16だもんな。でもうらやましいぜ」


「たしかにうらやましいな」


 仲間たちは僕に微笑んでくれた。言葉はなくても『がんばれ』って言ってくれてるのが分かる。


「さて楽しい間引きに戻るとするか」


「さっ、お仕事お仕事」


※時系列はこの章の前→歩夢と美奈穂が仕事をする仲になってからになります。



   □    □    □    □



 やっぱケツが何度見てもたまんねぇ~。


 僕は何度目かの暁クランとの仕事だ。僕の間引き作業は管理局からすればかなりコストの意味で効率がいいらしくどんどん仕事を組んでくれる。


「何度もお仕事を回していただきありがとうございます」


「僕の方が年下なんでいつものように話してくださいよー」


「いいえ、ちゃんとお礼をするときはしっかりとした言葉遣いをするわ。大人としてねっ?」


「かわいい。やっぱり美奈穂さんは最高だわ」


「ちょっと声に出てるわよっ!」


「声に出した方が反応してくれるからねー」


 えっちな言葉以外はできるだけ素直に声に出すようにしている。最初から彼女に惚れてるって言っているんだ10代らしくストレートに気持ちを伝えてみる。そうすると彼女の反応はまんざらでもないようで嬉しそうにすることがある。


「焦った気持ちがなかなか収まらない、それがまたかわいい」


「もー」


 でももう一押しなにかがブレーキが掛かっている気がする。


「で、稲垣さん何か知りません?」


「キミってかなり大胆だよね。今お嬢が席を外してるからって」


「だって僕、美奈穂さんに惚れているのバレてますし」


「おやっさんが何度もここで叫んでるからね」


「いい加減襲ってくるならなら美奈穂さんが来てしてほしいですよね」


「かわいそうにおやっさん」


「稲垣さーん。味方してくださいよー」


「確かに君とお嬢がくっつけばクランの財政状況はぐっとよくなるだろうね」


「そうでしょそうでしょ?」


「もうちょっとさ、大人に利用されることに危機感を持ったら?」


「そのくらい覚悟してますから、それで何かないんですか?」


「……お嬢は女性として以外の部分を認めて欲しいらしい」


「なるほど」


 確かに僕は彼女をかわいい女性としてしか見ていなかった。だけどハンターなのだそこを無視するのは失礼だったな。


「すいませーんお父さん。娘さんの素敵なところを僕に教えてください」


「この下種が!!ぶっころしてやるっ!!」


 いつもの通りお父さんとレスリングごっこで遊んだ。お父さんの怒声は今では愛情の証のように聞こえて非常に微笑ましい。


「……はぁ…………はぁ」


「今日も健康的に汗を流しましたね。では素敵なところをお願いします」


「ちくしょう!!」


 ふむふむ。家では猫を飼っていて、ロックバンドが好きで、料理は割とシンプルなものになりがち、そこまでレパートリーを増やすつもりはないと。


「意外な趣味とかはないの?」


「そんな暇あるか!」


 そう言われればそうか、彼女は人を救いたい。そのためにお父さんが作ったこのクランを守りたいという。ならば僕なりにできることを考えてみようではないか。

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