6「高校デビューしました」

「ない。それはないわ」


「なに食ったらそうなるんだ?」


「「ざわ……ざわ……」」


「……」


 そんなの僕が聞きたい。ゴールデンウィークの休み明け、僕はジャージで登校した。教室では先生や慎吾たちに事情を話したがどうも居心地が悪い。この日は授業が終わっても同じような目を向けられた。


「えーと?要歩夢くんだよね?そのお兄さんじゃないよね?」


「……はい、本人です。今日は先生に呼び出されているので部活を欠席します」


「そう、なんだ」


「では失礼します」


 僕の現在の身長は193センチ、身体は締まり、筋肉質になっていた。誰が見ても別人としか思えない。

 これはどう考えてもレベル3のスキル『成長促進』だけじゃなく新しく獲得したレベル4のスキルが関係した。


「失礼します、要です」


「ああ、来たか。相談室の方へ行こうか」


 僕のような確認されていないスキルは半年に一度は定期的に報告を上げる義務がある。不安になった僕は先生に連絡をして相談をすることにした。


「なるほど新しくスキルを得た影響と君は見ているんだね」


「そうです。『成長促進』というスキルを獲得したときは確かに短期間で背が伸びましたけどこんな変化は起きませんでした」


 僕はジャージを脱いで腕の筋肉を見せた。今、向かい側の席にいる川原先生は身体能力が上がるスキルに詳しい先生だ。


「確かにすごい筋肉だね。君、2週間前はホントにこんなに筋肉質じゃなかったのかい?」


「はい、むしろ体力は男子にしてはない方だと思います」


「信じられない。見た目からここまで変化するスキルは見たことがない」


「えっ?」


 驚いた川原先生だったけど肉体に変化が起きるスキルは存在しているらしく、もっと極端な例だと獣人化など一時的に変身するものもあるという。ただ成長という特性でいうならば僕に起きた変化は極めて珍しい事例らしい。


「改めて最近獲得した君のスキルについて説明してくれないかね?」



     *     *     *     *



「……って感じだったんだ」


「結局新しいスキルってなんだったの?」


「あっ、そうだね。そっちを説明してなかったね。新しいスキルは『チカラの可視化』って名前なんだ」


「『チカラ』は何を指すんだ?」


「多分、魔法を使うための力とか身体能力を引き上げるための力だと思う」


「思うってどんな風に見えるんだ?」


「色のついた矢印だね」


「あたし達には見えないしなー」


 先生は興味津々で根掘り葉掘り聞いてきたけど、慎吾と麻木さんの2人はそこまで僕の能力は興味がないようだ。


「じゃあ救護訓練の続きやるかー」


 慎吾と麻木さんはさっきまで、他のグループに混じって救護訓練をしていた。僕が戻ってきて2人はそこを抜けてきてくれた。

 僕たちが救護訓練に戻ると周りから驚かれた。麻木さんは普通に話してたけど他の人たちはクラスメイトと同じようにいきなり身長の伸びた僕に驚いたらしい。救護訓練は僕ら3人ですることにした。


「あゆむー遅れてきたからケガ人役ねー」


「うん」


 アスファルトの上に寝転がると日陰なおかげか背中はひんやりと気持ちよかった。要救護者役の僕は様々なシチュエーションを想定して手当を受ける。麻木さんは役に入り込んだのか変な演技を始めたようだ。


「出血はそこまで多くない……もしやっ!?」


「?」


 そんな麻木さんはいきなり僕のシャツをめくりお腹を晒した。


「いい腹筋、ぐっじょぶ」


「おい!」


「…………」


「「きゃああああああ」」


 周りにいる女子の一部が僕たちの方を見てしまったらしい。そんな彼女らの叫び声が聞こえる。


「堂々とセクハラしといて親指を立てるな!」


「いたい」


 流石の慎吾も麻木さんの頭を叩いた。

 僕は顔を真っ赤にしながらフリーズしてしまう。恥ずかしくて声が出ないよ。


 案の定、麻木さんは騒ぎを聞いて駆けつけた先輩に怒られていた。1年生の間で彼女の呼び名はカリナになった、なにかあっても『カリナだから』と言われることだろう。被害者の僕も彼女をカリナと呼ぶことにした。

 落ち着いて周りを見ると女子たちの向ける視線が今まで向けられたことのないものだと気づいた。中学の頃、女子の前で服を脱がされたときとは違う。これがオトコとして見られるってやつ?問題は下半身についているマグナムも急成長している件なのだが。

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