4「杉本の逆恨み」
「ところであのダンジョンは何のモンスターが出たんだ?」
あたし達はダンジョンに入ったのにモンスターを一度も見ていない。ただ要君から渡される魔石を受け取り、休憩のときに飲み物や食べ物を渡しただけだ。
「マズいな」
確かにマズい。こんな探索を続けていてはダンジョンの中なのに緊迫感がなくなり危険だ。この仕事の後は同じメンバーで必ずダンジョンに入り、勘を取り戻すことをセットにしよう。そういう意味でこの仕事はかなり厄介だった。
『依頼の完了を確認しました。次回もお願いしますね』
そう電話で墨家さんから連絡があった。依頼料も予定の満額振り込まれていた。最近の仕事としては割も良く、次回の仕事も回してくれそうだ。クランとしてはありがたいことは間違いなかった。
「で、お嬢。坊ちゃんへの返事はどうするんだ?」
「返事って彼は恋愛対象じゃありません。かといってきっぱりと断れば仕事がもらえなくなるでしょう」
「だから保留と?」
「そうです」
「別にいいじゃねーか?4つくらい歳が離れていても、上なら問題無いんだろ?」
「まぁ、あたしより上なら……」
「日本トップクラスのハンターにあんだけアプローチされて蹴るってのももったいない話だぜ?しかもプロのハンターなんて性格がひん曲がるのに性格はいいときてやがる」
「確かにそういわれると優良物件なのかもしれませんね」
「はぁ……お嬢はなんでそんなに乗り気じゃねーんだ?」
「結局あたしの価値って女であることなのかなって」
「……なるほどな。お嬢も大人になったってことだな」
「どういう意味でしょう?」
あたしはあからさまに不機嫌な顔をする。バカにされている気しかしないからだ。
「おっと、拗ねるなって。……大人になると大なり小なり壁にぶつかるって話だ。視野が広い分、自分がどこまでいけるか見えちまって嫌になる。それでも自分が選べるモンを選ぶのが大人ってもんさ」
「……」
自分の選べるものを選ぶか。
「今は保留ですね」
□ □ □ □
「おーす、学校来るの久しぶりじゃね?歩夢は」
「うん、みんなに会えてうれしいよ。まあ一応外で活動している時は出席扱いになってるからちゃんと進級はできるんだけどね」
「歩夢はこの学校の希望の星だからな」
「今のうちに付き合っとかないと」
「あはは……」
歩夢が管理局所属のハンターになったとき、学校側は歩夢を特別生にした。A級ハンターになった彼の活動内容は守秘義務が生じ、学内での活動の強制性もなくなった。
「そういえば部活は最近どう?カリナも元気?」
「カリナが元気じゃなくなったらカリナじゃねーな、部活は相変わらず平和で楽しいな。今日は来るのか?」
「うん、もちろん」
「突然呼び出されるなんてことはないよな?」
「突発的にダンジョンが生まれない限りは、溜まっていた仕事も一通り終わらせたしね」
「仕事なぁ。そう聞くと歩夢がプロのハンターになったって改めてわかるよなー」
しかしタイミングが悪いことに新たなダンジョンが生まれた知らせを聞いて歩夢が駆り出されることになった。
「ちっ、あの化け物更にヤバくなってやがる……。だがあいつがいなくなったなら好都合だ。あの計画をやってやるぞ」
相変わらずクラスで浮いている杉本がひとり呟いた。
「「ざわざわ……」」
それはダンジョン探索の時間のことだった。このクラスの生徒ももう慣れたもので皆それぞれ裏山のE級ダンジョンの昆虫のモンスターを狩っていく。慎吾と愛美は一緒の班でダンジョンを探索していた。今日もいつもどおりの狩り、そのはずだった。
「助けてくれっ!!」
「おい、どうした!?」
慎吾たちはその必死な声に驚き、彼の酷いケガに血の気が引いた。このダンジョンは森なので木や草でモンスターが隠れているが慣れれば安全に狩りができるはずだ。不足の事態、誰もが彼が来た方向や周囲に警戒し、彼から情報を聞き出そうと思ったに違いない。でも慎吾の対応は少し違った。
「ここまでこれば安心だ。だからまずは呼吸を整えればいい」
「っ!!……すぅ…………はぁ……」
「落ち着いたか?翔大、なにがあった?」
「ああ。仲間がケガをした。あいつら5体以上で襲い掛かってきやがったんだ」
慎吾たちは逃げてきた翔大に応急手当をし、いざとなったら走れる程度まで彼の状態が良くなったことを確認した。
「頼む、俺の仲間を助けてくれ」
「……みんな無理はしないつもりだがクラスメイトの命が危ない、協力してくれないか?」
「危なそうなら逃げるってことでいいわよね、慎吾?」
「そうだな。蛮勇は勇気じゃない、もちろん俺たちのできる範囲だけだ」
「「もちろん行く!」」
「じゃあ、決まりだな」
「俺は他のやつらや先生にも助けをもとめるよ」
「気を付けろよ」
慎吾たちは翔大の示した方向へ進む。途中崖があって左に曲がったところに翔大の班のメンバーがいた。彼らは血を流してうずくまっていたが身体は動いているようだった。
「大丈夫か!?」
「……つけ……ろ……」
「えっ?」
左後方の茂みからなにかが飛び出たのが見えた。それは信じられないものだった。
「うぎゃああああああああああああああああああああああ」
「あぁああああああああああああああああああ」
「ぐあああああああああああああああああ」
「いっ!!」
愛美だけはその攻撃が掠った程度で済んだが慎吾は足を、他の2人は腹部に穴が開いた。その攻撃は『槍』によるものだった。
「お前は何をやっているのかわかってんのか!?杉本っ!!!」
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