4「これが女子と普通に話せるリア充の景色?」

「ヤバい……また……」


 『精力大増強』このスキルは危険すぎる。なにが危険かといえば1日に何回出しても夜は夢精し、昼前にはこうしてスラックスに膨らみができるのだ。もちろん今はブリーフを3枚履きしてマグナムを押さえている状態だ。


「陽南子ったらありえなくてさぁ――――――」


 県立牙城高校は共学で実は女子の割合が多めだ。右を見ても左を見ても女子が視界に映った。女子には気づかれていないものの、血が集まっているところを無理やり抑えつけているからとても苦しい。


「あ~ゆむくんっ♪」


「……秋田さん、おはよう」


「おはよっ」


 彼女は僕の肩に手を置き挨拶した。思わずそれに僕はビクリとしてしまう。それに対して彼女は不快な表情でなく意味深な笑顔を浮かべている。


「ん~?」


「ど、どうしたの秋田さん?」


「歩夢くんこそどうしたの?目逸らして」


 秋田さんは少し長めのショートヘアがとても似合い、猫のような表情で見つめてくる。そのかわいらしい表情に思わず理性が飛びそうになるが下半身の苦しさに気づき理性を取り戻した。


「……なんでもないよ」


「じゃあなんで目を合わせてくれないの?」


「あ、秋田さんがかわいいからだよ」


「うれしいなぁ。ちゃんと見てくれていいんだよ?」


 だって近いじゃないか!秋田さんは僕が困ってるのを絶対わかってる!

 でもこんなに理性が吹き飛びそうなほどマグナムが熱を帯びて暴発しそうだなんて思ってもいないよね!?


「おい、歩夢をからかうな!」


「いったぁ……なにも指で突くことないじゃん……」


「弄ばれた男子高校生の心のほうが痛いわ!」


「でも~歩夢君がもうちょっと筋肉質ならかなりタイプだしー」


「あ」


「やめろ!歩夢、こいつの目は今笑ってるぞ!騙されるな!」


 今は女子から目を逸らされる中学時代を考えれば大した進歩だ。

 ただしマグナムの暴走でこんなにも苦しむことになるなんて、リア充への道は険しい。



   *    *    *    *



「学校の裏山を動き回るよー各自班を作って5人までのグループを作ろうか」


 このフィールドワーク部は女性の先輩の発言権が強いらしい。男の先輩はいるのだけど前に出るタイプのひとはいないようだ。


「心配しなくても大丈夫だよー友達がいる人はそこで固まっておけば、あとはわたしたちで班を振り分けるからねー」


 ぼっちに優しく配慮してくれるそうだ。この部の先輩たちは50人ほど、新入生たちは30人ほどいた。4,5人のグループが4つはできてるから班分けはそんなに時間が掛からなかった。


「君たちは男子2人ね」


「はいっ」


「……はい」


 慎吾はテンションが高そうだ。でも僕はここに僕と同じ陰キャぼっちが集まったら慎吾が大変なんだろうなって考えてしまった。


「あたし麻木香理奈、よろしくっ!」


 テンションの高いおひとりさまが来た。もう一方は2人組の女子2人だった。


「北原慎吾だ」


「要歩夢です」


 僕が自己紹介をすると2人組の女子たちは思わず体をビクッとした。地味に傷つく。


「だーいじょうぶだって、俺ら普通科だし戦闘訓練がいやでこの部に来たんだ。歩夢は紳士なやつだよ」


 流石慎吾だ。女子たちは少し緊張が解けたようだ。


「なーあゆむー。なに食ったらそんなに大きくなれるんー?」


「さ、最近背が伸びたんだけど、特に特別なことはしてないよ」


「へーそうなんだー」


 訂正。最初から緊張していない女子が1人だけいた。

 彼女はハンター科の生徒らしく友達が魔法系、戦闘系を選んでバラバラになってしまったらしい。背の低く活発そうな彼女にはハーフがよく似合う。


「麻木はなんでこの部を選んだんだ?」


「それはあたしのスキルがスピード系だからかな?攻撃の練習よりもダンジョン内を走ることが多いって先生に聞いてこの部を勧められたんだー」


 裏山散策は特に装備もなく各班バラバラで始まった。


「そういえばハンター科はもうダンジョンに入ってるって聞いたけど本当か?」


「そうだよー。大きいネズミとかウサギを倒してるよー」


「怖くなかったか?」


「そんなに怖くなかったなー。動きは速くないし、倒したら消えるからねー」


「でも怖がってる人はいたよな?」


「最初はねー。でも3日くらい経つと怖がる人なんていないよー」


「なるほどな」


 慎吾は普通に麻木さんと話していた。これが本物のリア充か?

 他の女子2人は向こうで話し込んでる。でも流石慎吾だ、麻木さんに僕の話を振ってくれた。


「歩夢はさ、数学得意らしいんだぜー」


「えーうらやまっ。あたし数学苦手なんだよねー」


「ならテストの前に教えてもらおうぜ?いいだろ?」


「えっ、あ、僕でよければ力になるよ」


「わーい」


 こんな風に話に入ることができた僕は慎吾に感謝した。心配していたマグナムは歩いたおかげかいつの間にか大人しくなっていた。

 僕たちは話しながら先輩が指定した目標地点を目指して進む。最初はハイキング気分だったのだけど段々と喋りながら歩くのは辛くなった。


「はぁはぁ……結構疲れますね」


「先輩!わざとアップダウンするように目標地点を選んでるでしょー?」


「当然だろ?これが救護活動なら荷物に要救護者も背負わないといけないんだぞ?楽しくおしゃべりするのは自由だが、俺たちはお前たちを鍛えるつもりだからな」


 先輩は流石で僕たちの息が上がっている横で全く平気な顔をしていた。この日の散策は2時間。雨の日でも裏山散策をすることがあるそうで思ったよりもこの部活はハードなのではと気が付いた。


「慎吾、僕今日は死んだように眠れそうだよ……」


「ん?そうか、このくらいなら俺は平気だがな。それに麻木も余裕そうだぞ」


「マジかよ」


 もしかして僕ってひ弱?置いていかれたらぼっちになる、こっそり鍛えなければ……

 この日の夜は泥のように眠り、いつものように夢精する。夢には麻木さんが出てきた。

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