2「もうめちゃくちゃだよっ!」

「下がって!!牽制します!!」


 あたしは火球をモンスターに撃ち込んだ。火の明るさで奥には数体の装備をつけたゴブリンとオークがいることに気づく。

 想定外の大量のモンスターに作業員は手を止め、パニックに陥る。『宵月』の2チームも同じようで動きが芳しくない。


「落ち着けっ!!!……まずは作業員の皆さんは事前の打ち合わせ通りあの通路の窪みに集まってください!」


 作業員たちが動き始めたのを見届け、襲われていない『宵月』のチームをじっと見つめる。彼らはハッとしたように急いでこちらに駆け寄ってきた。


「お前が指示を出すな!」


「あなた方が指示を出さずにパニックになっているからでしょう?それよりも早く、睦月さんたちを支援してください。あたしたちももちろん手伝います」


「わっ、わかった」


 睦月さんたちは後ろに下がりつつ2体のゴブリンを倒していた。ただ3体のオークが厄介なようだ。リーダーの睦月さんを含む全員が何かしらのケガをおっているようだ。


「稲垣さん、渡辺さん。とりあえずいつも通り端から攻めましょう」


「「おう!」」


 渡辺さんがオークの1体を引きつけ、稲垣さんが押して上手くバランスを崩し膝をつけさせた。


「今です」


 オークを仕留めた。あたしも指揮以外にも火球で牽制し、周りに隙を見せない。


「すげぇ、あんなあっさりと」


「『暁』の糸谷美奈穂。大手クランの勧誘を蹴り、父親のクランに入ったB級ハンターだ」


「あのお嬢ちゃんはそんな有名なんすか?」


「職業柄ハンターに知り合いが多くてな。この業界で生き残りたければ情報は大事だぞ」


 なんか作業員さんたち盛り上がってるわね。というかベテランとはいえ手首より先がない稲垣さんがいるうちに負けてるんじゃないわよ。本当に口だけって、依頼人の前じゃ言えないわね。


「……おわったぁ~」


 糸が切れたように『宵月』のメンバーたちはしゃがみ込んだ。あたし達は周りを警戒し彼らが落ち着くのを待った。


「すまない、今回の発掘はここで引き上げたいと思うのだが構わないか?」


「約束通りの報酬が頂けるのであれば構いません」


「……そうか」


 6時間を予定していた発掘作業は3時間弱の半分以下で切り上げることになった。今回の契約は失敗してもこちらに過失が無ければ全額もらうという契約だった。彼らはケガ人は出ても死者はいなかった。今回の発掘量なら一応赤字は出ないであろう。


「あいつら偉そうだったのに弱かったよな」


「『宵月』なら発掘作業員の警護なんて下っ端がやることだししょーがねーよ」


 でも長時間の警護はある程度経験が無ければ難しい。彼らもそれなりに訓練や経験を積んできた部類だ。ただ経験という意味でいうならばあたし達と比べるのは酷というものだ。


「はぁ。だけどなぁ、結局うちら安い金で雇われてるんだよなぁ」


「「……」」


 人数がいないあたしたち『暁』が力を合わせても、C級ダンジョンのボスに到達するのさえ難しい。結局これが今できる最良の稼ぎ方なのだ。


「「はぁ~」」


 なんとか伝手を使って食い繫ぐ日々が続くのかと思いきや、管理局支部から仕事の依頼がしたいからと打ち合わせの連絡があった。

 ちょっと変だ。普通ならばもっと具体的に仕事の内容が書かれて送られてくるはずなのにとりあえず来いみたいなのは初めてだった。


「コレ、どう思う?お父さん」


「緊急招集とかじゃなさそうだよな。ニュースを見てもそんなことはないだろうし、そういう話が回ってくるとしたらよそが先だろうし」


 そういわれるとここ数年、目立った実績がないうちに管理局支部から依頼があるのは不自然だ。とはいえ応じないわけにもいかないのであたしは父と共に出向くことにした。


「今日はわざわざお越し頂きありがとうございます」


 会議室に通されたあたし達は課長の墨家さんに挨拶された。それと隣に高身長で筋肉質な男性がいた。男性とは言ったがその顔立ちには多少幼さが残っていた。


「お仕事の依頼ということで我々としては非常にありがたいです」


 父と墨家さんは昔からの顔見知りだ。ただし墨家さんは曲者らしく基本的に父が相手をするということになっている。


「今回は隣にいる要君に関係することで依頼をしたいのです」


「カナメ……ほう、その少年が噂の成神支部の秘蔵っ子ですか?」


 お父さん、知ってるの?あたしは忙しくてそういう噂話なんて知らないけど。あたしは話の続きを見守ることにした。


「ご存じでしたか?要君は今やこの地域でもトップクラスのハンター、しかしソロでダンジョン探索は許可できません。なのでサポートをあなた方に頼むことにしました」


「ただの坊ちゃんのお守りということではないのですよね?」


「もちろんです。なにしろ最低でもB級ダンジョンのモンスターの間引きをしてもらいますから」


「B級!!?」


 思わず叫んだあたしを父は睨みつけた。我に返り、小さくなるがそのときぼそっと小さく声が聞こえた。


「……かわいい……」


 えっ?要君っていう子、今あたしのことかわいいって言った?


「B級ダンジョンとは無謀では?我々のクランが総出でもC級ダンジョンを進み続けることさえ困難なのですが」


「あなた方にはあくまでサポートをお願いしたいのですよ。最低限、要君が休めるくらいに周りを警戒できれば十分です」


「はぁ、また変わった依頼ですね」


 父の言葉には呆れが混じっていたのだが墨家さんは全く気にしてなかった。


「では価格の交渉に入りたいと思うのですが、若い人たちはあちらで交流を深めてはどうでしょう?」


「そうですな。私はもう現場には出られません。実際に現場で仕事をするのは要君とうちの娘ですな」


「要君、喫茶店に案内してあげなさい。君からもいろいろと話したいことがあるでしょ?」


「はい」


 要君はこちらにと言い、あたしを会議室から連れ出した。しばらく彼が歩いた後、振り向きあたしの顔を見た。ハッとした。この子の表情、この流れはアレだ。


「好きですっ!!!!あなたをひと目見た時から心を奪われましたっ!!!」


 突然のことにあたしが棒立ちになっていると、後ろで乱暴に扉を開ける音が聞こえた。


「小僧っ!!!!!娘が欲しければ俺を殺してからにしろっ!!!!!!!!」


 もうめちゃくちゃだよっ!なんであたしが告白されたのに考える暇なくお父さんが出てくるの!?

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