第35話 死地の果てに[覚醒者編]
——【覚醒者クエスト】の開始より11時間が経過しました。残り時間は1時間です。
まさしく死に物狂いで挑み続け、回復が一切できない状態でオレの残りHPは20%を切っていた。
集中力も拙くなり、限界はとうに超えている状態だ。そんなオレに対して、敵の数は1000を超えている。
盾持ちの甲冑騎士に大型の剣を構えた騎士、弓を使い遠距離から毒矢を放ってくる兵士に、黒フードを被った魔法使い、獅子の魔物に大鎌を携えた死神モンスター……等々。
しかもそれらは互いに連携して攻防を繰り出してくるという、めちゃくちゃっぷりだった。
(……これだけの長時間の戦闘で、この刀が折れないでいてくれてることだけが救いだな)
余裕のない中ではあったが、共に頑張ってくれている相棒——【黒刀-星刃-】を見つめながらそう思った。
——残り時間30分です。
——残り時間20分です。
——残り時間5分です。
(……後少し……少しだから頼む、動いてくれオレの腕……オレの脚)
ただ、これだけ大規模なクエストの大詰めである残り5分の場面で、当然何も起こらないはずがなかった。
……そう、ここにきてレベル100の大型ボスが10体同時に出現したのである。
この10体の大型ボスは、確実にオレの息の根を止めるために全力で向かってきた。
「……くそっ!こんなところで、立ち止まるわけにはいかないんだよ!!!」
——全ては強くなるために。
——全ては最強の"頂"を手にするために。
——全ては大好きなかなでを護るために。
「——おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
最後の力を振り絞り、全力全快で刀を振り続けた。
(……あと1分!!)
本当の意味でここが最後の正念場だった。
当然気を緩めることはなく、むしろこの12時間の中で最も集中するくらいの気迫で対抗していた。
でもだからこそ、目の前に集中しすぎていたことが良くなかったのだ……。
オレは2体同時に仕掛けてきたレベル100の大型ボスの攻撃をギリギリのところで回避したが、その攻撃に気取られすぎてしまった。
(…………はっ!?)
オレの回避とほぼ同時に後ろから攻撃を仕掛けてきていた3体目の大型ボスに気付けず、反応に遅れてしまった。
身体を捻るよう無理やり避けようとしたが、避けきれず……大型ボスの斧は見事なまでに、オレの左腕に直撃した。
そして同時に——激痛に襲われた。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ—————————————!!!!!!!!!」
オレの悲鳴がダンジョン内に反響し、何重にも重なったように聞こえる。
血が大量に溢れ出ているのではないかと錯覚するほどの激痛に、視界が涙で滲んでしまった。
涙を右手で拭い左腕を確認すると————そこにオレの左腕はなかった。
(……腕が…オレの左腕が……)
このダメージによりHPゲージは一気に減少し、残り2%を切ってしまった。
(……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)
あまりの痛みに力が入らず膝から崩れ落ちてしまう。
そんな姿を見た敵はここぞとばかりに剣や槍……ありとあらゆる武器用いて四方八方から襲いかかってくる。
(……動け…ない…コロされる!!)
——規定の時間に達しました。【覚醒者クエスト】クリアとなります。
あとほんの少しでも動いてしまえば、確実に命が奪われてしまうほどギリギリの近距離で、周囲の敵たちの動きが "ピタッ"と止まった。
……そして数秒の後、それらは一斉に消滅した。
「……終わった……のか?」
激しく痛む左腕の切断部分を右手で抑えながら、オレは床に倒れこんだ。
(……やったぞ。オレはやり遂げたんだ!)
これまでの中で文句なしの最恐クラスの難易度をクリアできたことで、心の底から達成感が湧き上がっていた。
ただし、失った代償も大きかった。
(……これ腕は元に戻るのかな)
「——スキル【影武者】!」
状態を元に戻すことができるスキル【影武者】を使えば、もしかすると切断された左腕も元に戻るかもしれないと思ったため、使用してみる。
【覚醒者クエスト】クリア後であれば制限は関係ないので、問題ないと考えたのだ。
……だが、左腕は戻らなかった。
いや、厳密に言えばそもそもスキル【影武者】自体が発動しなかったのである。
「どういう……ことだ?」
この時、感覚的にものすごく嫌な予感がした。
クリアしたとは出たが、これだけの時間が経過しているのにシステムから報酬の通知すら来ていないのも変だったからだ。
「はは……さすがにまさか、まだ続きがあるなんて言わない……よな?」
……オレの予感は最悪の形で再現されることとなった。
——これより【覚醒者クエスト】[ボーナスステージ]に移行します。注意事項の項目に関しては、そのまま引き継がれます。
「ボーナスも何もいらないって……もうまじで動けないくらいんだよ!!休ませてくれよ!!」
座り込むオレの目の前が突如として巨大な光に包み込まれる。
青白い雷を纏い巨大な甲冑と野太刀を両手に装備した鬼の大型ボスが1体。
そして、同じく大型ボスでいかにもヤバそうな見た目の黄金の杖を装備した漆黒マントの骸骨魔法師が1体……合計2体現れた。
2体ともレベルは120と表記され、HPゲージがそれぞれ50本ずつ備わっていた。
「いやいや、意味分からないからなこれ……」
刀を支えにしながら、ふらつく足でなんとか立ち上がる。
(——これは、本当にダメなやつだ……)
切断面の激しい痛みはまだ続いており、強烈すぎる大型ボスモンスター2体を前に、もはや絶望することしかできなかった。
ここで虚しくもオレの意識は段々と遠のいていった。
——プレイヤーイザナの生命の危機を感知。【完全自立型コアプログラムシステム ——"Code01"】が管理者権限を使用し、メインプログラムシステム"Code00"……【通称:NOW】からの分離及び緊急事態措置を申請……受理されました。
『これより、プレイヤーイザナとの強制共命を開始します。共命率は——20%です。』
薄れゆく意識の中、システムがそう話している声だけが聞こえていた。ここでオレの意識は完全に途絶え暗闇に包まれた。
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