第19話 第2階層へ(事件編)[第1階層編]

 ー第1階層城塞都市カルディア

 ー【領主の屋敷】



「あの……リーシャさん?」



【領主の屋敷】に立ち入る際に、衛兵たちに今は控えていただいた方が……と言われたのだが、挨拶するだけだと答えると、部屋まで招かれたのだった。


 この時点で何かが起こっているのではと予測してたが、リーシャさんの姿を目にしてそれは確信に変わった。


 以前のような凛々しさはかけらも感じることができず、本当に同じ人か疑いたくなるほどに憔悴しょうすいしている領主の姿があった。


 眼から涙が零れ落ちた跡が残っており、表情は明らかに絶望しきっている。


「あぁ、貴殿か。エリアボスのあの兎を倒したのだな。」


 オレに気付いても、ボソボソッとしか話さない声には、まるで覇気が感じられなかった。


「リーシャさん何があったんだ?」


「私は……護れなかったんだ。」


「リーシャさん?」


「う…うぅ……。」


 だめだ、会話にならない。



「リーシャさん。オレは第2階層へと行くよ。でも今のリーシャさんのことはほっておけない。オレはあなたと友好的な関係だと思ってるし、それは第2階層に行っても同じだと思ってる。だから何か手伝えることがあったら、言ってくれ。」


 自分はあくまでも味方であると明確に伝えることで、リーシャさんはようやく話してくれた。



「今日、貴殿らがあのエリアボスとやらに挑んでいる最中に領民が死んだのだ。」


 ……は?NPCが死んだ?


「どういうことだ?寿命……か?」


 リーシャさんは首を横に振る。


「いや、文字通りの意味で死んだ……というより殺された。」


「殺された?」


 ……NPCに殺人犯的なのが現れた、ということだろうか?でもそれならここまで絶望することに繋がるとは……。


 ここまで考えて、オレは1つの可能性にたどり着いてしまった。


「まさか……オレたち側のやつが殺したのか?」



 リーシャさんは静かに頷いた。



 プレイヤーがNPCを殺した。

 オンラインNOW!は触覚すら再現されているため、NPCに触れる感覚も楽しめるように作られている。

 つまり、殺すことは事実上可能であった。



「リーシャさん、本当にすまない。」


 オレは精一杯頭を下げて謝った。


「どうして貴殿が謝るんだ?そんなことをしてもあの子は戻らない……。優しい子だったんだ、私の妹……。」



 領民ってだけじゃなく自分の妹だったのか。


「リーシャさん、その場所に案内してもらえることはできるか?きちんと見ておきたいんだ。」


「……分かった。案内しよう。」


 オレとリーシャさんと衛兵数人は騒動があった場所へと向かった。



 ♢


 それは酷い、という一言で表すことが許されないほど形容し難い悲惨な状態だった。

 辺り一面が建物を含めて壊され、血痕が至る所に残されている。



「リーシャさん、これ他に怪我人も出たんじゃ?」



「軽傷者13名、重傷者6名……死者は妹だけだったよ。」



 やっぱり、怪我人も出てたんだな。


「う……どうしてあの子が殺されなきゃいけなかったの。ううぅ……。」


 リーシャさんは口を押さえながら、その場所を見つめながら本格的に泣き始めてしまった。


「貴殿にこんなことを頼むのは、違うのかもしれない。……けど頼む。どうかあの子の仇を……。」



 リーシャさんがそう発言すると、急にシステムの声とログが流れ始めた。



 ー【世界クエスト】を発生を受理しました。カルディアの英雄としてあなたは【世界クエスト】に挑む権利が与えられています。



 ○【世界クエスト】《カルディア領主の望み》

 →カルディア領主リーシャの望みに応え、領民や妹を傷付けたプレイヤーを見つけ、確実に殲滅してください。

 このクエストには時間制限はありません。



 注意:このクエストを攻略することでプレイヤー側と反する存在へと足を踏み入れることとなります。

 失敗に終わった場合は、カルディアの領主からの信頼が失われます。



【世界クエスト】を受注しますか?



《YES / NO》




「【世界クエスト】だって?また聞いたことがない存在だな。」


 クエスト内容も事件の犯人の殲滅という項目以外意味不明である。


 クエスト自体に強制力はないため、これを受けなければ、いいだけなのかもしれない。



 でも目の前で泣いてるリーシャさんを見て、プレイヤーが起こしたというこの惨劇を許すことができなかった。



「リーシャさん、後はオレに任せてくれ。」




 オレは【世界クエスト】の受注に対し《YES》を選択し、そのまま第2階層へと向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る