第28話 異常事態[第2階層編]

 あれから3日間、クエストの隅々までもう一度調べ上げたが、やはり【緊急クエスト】が発生することはなかった。


「うーん何で出てこないんだろうな……。ついに第2階層【レイドクエスト】実装の日になっちゃったな。」



 例の如く参加を表明しているプレイヤーたちは、今回の大型ボスである "女王蜂" の出現場所に集まってきていた。




「いよいよっすね。ほむらちゃんのことは今度こそ、僕が守るっすよ。」



「はいはい、分かりました。ちょっとだけ期待しておいてあげるわ。」



 ルイとほむら、どうやらこの2人……まんざらでもないみたいだな。


 かなでは2人のやり取りを見て、羨ましそうにしながら少しこちらをチラッと見てくる。



「あー……。コホンッ……ええっと、その……かなでのことはオレが護るよ。」



 改めて言うのは照れくさく、わざとらしく誤魔化して言ったが、かなではオレの言葉を聞いて嬉しそうに"うんっ!"と頷くのだった。



「おいおい、4人とも気を引き締めてくれよ。前回みたいに【レイドクエスト】は何が起こるか分からないんだから。」



 ……4人ってオレもかよ!


 と、心の中で思ったが、確かにタケルの言う通り【レイドクエスト】では何が起こるか分からないので、気は引き締めておかなければならないと、自分のことを戒めることにした。



 そんな状態のオレに応えるかのように "女王蜂" の出現予定時間まで残り30秒と迫った時、突如としてオレの目の前が急に紅色に染まり始めた。



 ……おいおい、まさか?



 システムからポップが表示される。

 それは予想通り【緊急クエスト】を記すものだった。



【緊急クエスト】《第2階層専用》

 "女王蜂" は討伐される危険を察知し、周囲に仲間を呼び寄せることにした。"女王蜂"の仲間を半分以上減らした上で "女王蜂" を討伐し、グランディアの人々を守り抜け。




「ん?今回のはこの程度なのか。仲間が何体出てくるか知らないけど、最低半分でいいってのはラクだよな。」


 と、安心しているところに追い討ちをかけるかのように、オレの耳にシステムの声が響いた。




 ー第2階層住人の命の危険性を感知。住人たちの希望に基づき【世界クエスト】が受理されました。




【世界クエスト】

 "女王蜂" 並びに周囲に存在する全ての敵から、プレイヤー及び住人全員を護り抜け。


 敵対象①: "女王蜂"(0/1匹)

 敵対象②: "キラービー"(0 / 20000匹)

 達成条件:プレイヤー及び住人全員の守護。

 ※1人でも死亡してしまった場合は、クエスト失敗となり住人からの信頼が失われます。


 ※なお今回の【世界クエスト】では以下のスキルの使用が制限されます。

 使用制限スキル名:【マナコントロール】



ー【世界クエスト】を受注しますか?

《YES / NO》



「【緊急クエスト】と【世界クエスト】の同時発動だって?!……しかもこれは内容がさすがにめちゃくちゃすぎるだろ。」



 プレイヤー全員に、NPCである住人にも被害が一切及ばないようにしてなおかつ、スキルも制限された状態……まさしく極限の状態とも言えるだろう。



オレが【世界クエスト】の受注をキャンセルしようとすると、


ー今回の【世界クエスト】を受注しない場合、キャンセルのための対価が必要となります。


対象対価:ステータスポイントの半減。



という非情な内容がシステムから告げられた。




……くそ。こんなの受けるしかないじゃないか。


オレは渋々【世界クエスト】の受注に対し《YES》を選択した。



 そうこうしていう内に。派手な演出と共に巨大な超大型の蜂……"クイーン・オブ・ザ・キラービー"が現れる。


 そして【緊急クエスト】並びに【世界クエスト】の表記通り、周囲に仲間である大型の蜂"キラービー"が大量に出現した。




「は?またこういうパターンかよ。敵は"女王蜂"だけのはずだろ!何なんだよこの数は……聞いてないぞ!!」


 タケルはまさかの展開に激昂する。


 ルイもかなり焦っていたが、自然とほむらの前に立ち護る決意を固めているようだった。



 かなでは、苦手な虫の多さに目を回してしまっており、小声で"ムリムリムリムリムリムリ……。"と呟いていた。



「クソっ……こうなったら前回みたいにみんなで連携して協力するしかないな。ルイ、ほむら、かなで、イザナ……みんなで力を合わせよう!」



 タケルが連携を強調し、みんなが決意を表明するかのようにしっかり頷く中、オレだけは首を横に振った。



「すまないみんな。オレの身勝手を許して欲しい。」


 オレはみんなにそう告げた。



「イザナくん!何言ってんっすか!!今回こそみんなで協力しなきゃ勝てないっすよ!!」


 ルイにも協力をするよう呼び掛けられるが、オレは聞き入れるつもりはなかった。



「みんな勝手を言ってすまない。そして、かなでに頼みがあるんだ。」


「なに?イザナくん……。」



 協力しようとしないオレの言うことを聞いてくれるか分からなかったが、かなでにお願いすることにした。



「これからオレのHPは瀕死状態に陥ることになると思う。……だからもしかなでがオレの身勝手を許してくれるなら【回復ヒール】を頼みたいんだ。」



「私にとって何よりもイザナくんのこと大事だから【回復ヒール】はもちろんするよ!……けど瀕死状態って、まさかイザナくんこの"蜂"の大群に突っ込んでいくつもり?」



「あぁ……。全部残らずオレが片付ける。」



「ダメだよ!こんなの瀕死状態じゃ済まないよ……イザナくんが死んじゃう!!1人で行かないで!!」



 かなでの心配そうな叫び声を背後に聞きながら、オレは1人で数歩移動し、鞘から【黒刀-月影-】を抜いた。

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